コラム

中国政府の外国浸透作戦には要注意(李小牧)

2018年03月08日(木)17時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

かわいいパンダも時に人を襲うことがある (c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<100万人を超える日本在留の中国人を通じて、中国政府が宣伝戦を仕掛けて来るかもしれない。パンダ外交を見ればわかる通り、見た目にだまされてはいけない>

以前のコラムで「中国人はお人よしだ」と書いたが、ちょっと訂正させてほしい。中国人はお人よしだ。でも彼らを代表する中国政府がそうとは限らない。

先日、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が「台湾人の飲食店従業員が、オーストラリアでクビになるケースが相次いでいる」という記事を書いた。店の老板(社長)はみんな大陸からやって来た中国人。「台湾は中国か否か」をめぐって遠くオーストラリアで「両岸戦争」が勃発し、「台湾は台湾だ!」と自説を曲げなかった台湾人が職を失っているのだ。

これは日本では起きないケース。というのも、日本に来る台湾人たち、特に留学生はもう中華料理店でバイトしない。日本はオーストラリアより物価が安いし、彼らの多くは「動漫(アニメ)」やアイドルの追っ掛けに忙しく、バイトしているヒマなんてない。

オーストラリアの中国人社長たちは、共産党からの指示で台湾人をクビにしたわけではない。「狐假虎威(虎の威を借る狐)」で、大きくなる祖国の威力を背景にあくまで自主的に両岸問題を解決しようとしたのだろう。

ただ、対岸の火事だと日本人も安心してはいけない。アメリカでは最近、中国メディアの社会への浸透ぶりが問題になっている。また、国営テレビ局CCTV(中国中央電視台)は16年末、国際放送部門の名前を「CGTN」と変えた。ChinaのCが一個減っただけで、ずいぶん中国色が消えたように感じるが、中身はプロパガンダ機関のままだ。

違法滞在も含めれば在日中国人・元中国人は100万人に迫ろうとしている。それに紛れて中国政府が宣伝戦を仕掛けても日本人は気付かない。今年から来年にかけて、日中首脳が相互訪問すると噂されている。雪解けムードは歓迎だが、天安門事件後の92年、中国が世界の経済封鎖の突破口として天皇訪中を利用したときの雰囲気に似ていると思わなくもない。

ジャイアントパンダが中国外交の最大の武器であることはよく知られている。だがこのかわいい動物は、時に人を襲うことがある。「見た目にだまされるな」という中国政府の深い深い意図が込められているのかもしれない。

【ポイント】
CGTN

China Global Television Network。英語のほかアラビア語など計5カ国語で全世界に向け放送している。

ジャイアントパンダ
かつては外国にプレゼントされていたが、82年以降は有料レンタル方式になった。中華民国時代の41年にアメリカに寄贈された歴史も。

<本誌2018年3月13日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story