コラム

共産党は中国の「けなげな子供」を利用する(李小牧)

2018年02月07日(水)11時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

これだけ政府に善意を利用されても気付かない……やはり中国人はお人よし ©2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国人は農村部の子供たちの貧しい様子を見ると、とにかく何かせずにはいられない>

中国人はお人よしだ。こう言うと、日本人はきっと反論するだろう。でも元・中国人の私が言うから間違いない。特に小さな子供がかわいそうな目に遭っているのを見ると、とにかく何かせずにはいられない。

1月中旬、1枚の写真が中国のネットで大反響を起こした。雲南省の山間部に住む小学3年生の王福満(ワン・フーマン)君が髪と眉毛を真っ白に凍らせて登校した様子を撮影したものだ。学校が統廃合されたため、彼は寒い冬でも毎朝4.5キロを歩いて登校しなければならない。都市への出稼ぎ農民が増えたため、農村では急速に過疎化と学校の統廃合が進んでいる。

王君も父親が出稼ぎで1年の大半は家におらず(母親は家を出たらしい)、祖母と姉の3人で暮らす「留守児童」だ。頬を真っ赤にした薄着の王君の写真を見た中国人の間で一気に同情が広がり、彼の通う小学校に10万元(約170万円)の寄付が送られた。農村の人々にとっては大金だ。同じ時期、山東省で7歳の孤児が育ての親の宅配業を手伝う動画も人々の同情を呼び、これにも寄付の申し出が殺到した。

この種の現象は今に始まったことではない。90年代、寄付金を集めて農村地区の貧しい子供の暮らしと学習を助ける「希望工程(希望プロジェクト)」という運動が広がった。大きな目が印象的な少女のポスターが運動のシンボルになり、ここから資金援助を受けた児童の数は300万人を超えた。

中国人がこの手の話に弱いのは、農村に自分のルーツと感傷を覚えるから。彼らの善意と思いやりは確かに素晴らしい。だが、本来は自分たちがやるべき貧困対策や教育問題を、民間の寄付に頼って解決する政府はずる賢くないか?

この話にはオチがある。冒頭の王君が「将来、警察官になりたい!」と素朴な希望を語ると、さっそく警察大学が特殊部隊の制服を着てライフルを持った王君の似顔絵を作り、警察のイメージアップに利用した。90年代の希望工程のポスターになった「大きな目の少女」は、なんと共産主義青年団の副書記になった。堂々たる共産党の幹部候補生だ。

これだけ政府に善意を利用されても気付かない......やはり中国人はお人よしだ。

【ポイント】
■留守児童

出稼ぎに行った両親が、都市では教育など十分な公的サービスを受けられないため祖父母らと農村に残した子供のこと。

■共産主義青年団
14歳以上の青年が所属し、共産党員予備軍として共産主義などについて学ぶ。出身者が党の有力派閥を構成する。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story