コラム

成功した社会起業家でも生き方に迷う

2015年10月22日(木)17時24分

モデル不在 時代の変わり目になると若者は新しい生き方を模索し始めるが andresr-iStock.

 サイショアツヨシくんという若い友人がいる。税所篤快。早稲田大学の学生だったころにバングラデシュでの教育支援に取り組み、最貧の村から最難関ダッカ大学の合格者を輩出して話題になった。さらにはアフリカの未承認国家ソマリランドに乗り込んで、初めての大学院を立ち上げるという快挙。本もたくさん書いている。

 これだけ聞くと輝かしい経歴の若者に見えるけれど、実際に会って話すといつも困ってる。飄々とした表情なんだけど、そのわりにいつも悩んで苦しんでいる。

 最初に会ったのは、2013年のことだ。クラウドファンディングREADYFORの米良はるかさんを、週刊誌AERA「現代の肖像」で取りあげた時の周辺インタビューのためだった。ひととおり話を聞くと、サイショくんは悩みを打ち明け始めた。

「大企業に行ったほうが良かったのか、今のような仕事をしていて大丈夫なのか、不安でたまらないんですよ」という。大手外資系企業や人気の広告企業に就職した同級生たちと、どうしても自分を比べてしまう。「彼らの方が、大企業の中で育ってるんじゃないか。自分は何にもないんじゃないか。そう考えちゃうんですよ」

 だから大学をを卒業する前に、人なみに就職活動をしてみたんだという。でも内定はひとつも取れなかった。ますます不安になる。友人の米良さんに相談すると、こう言われた。

「なんで就活するの? いまサイショくんがやってることは、サイショくんにしかできないじゃない」

 結局、就職活動をあきらめたサイショくんが米良さんに「もう就活はやめたよ」と電話で話すと、米良さんはこう返したという。「おめでとう」

 時代の変わり目がやってくると、新しい生きかたや働き方、新しい世界をどう作るかを模索する若者たちが現れてくる。いまがまさにそうだ。でも転換期というのは、ロールモデルがいないし、先導してくれる人もなかなか現れない。おまけに先走ったことをしていると、後ろからやってくる多くの人たちには理解されにくい。だから容易に批判されてしまう。だからサイショくんの悩みはそうかんたんには解消しない。

取材した相手に自分の悩みをぶつけてみた本

 サイショくんが最近、新しい本を出した。『若者が社会を動かすために』(ベスト新書)というタイトル。前半は自分自身の話で、後半では若者たち8人にインタビューする内容になっている。すごい行動力でさまざまな活動をしている人たちばかりなのだが、面白いのは活動や人となりの紹介だけが描かれているのではなく、サイショくんが自分自身の人生の悩みをぶつけて、それに彼らがどう答えているのかを書いていることだ。

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story