コラム

成功した社会起業家でも生き方に迷う

2015年10月22日(木)17時24分

 サイショくんの悩みに彼らがどう答えているのかを、少しだけ紹介してみたい。

 フェアトレードのジュエリーを販売するHASUNAの白木夏子さん。「一人ひとりができる社会貢献ってなんだと思いますか?」と聞かれて、「その人がその人らしく、いきいきと輝いて生きること。そのために、みずからの魂に正直な自分でいること......それが一番の社会貢献かな。いきいきとしている人って、周りの人に活力を与えるからその人を中心にどんどん空気がよくなるんですよ。そうやって皆が生命力にあふれた顔になったら、それだけで素晴らしい社会になりますよね」

 聴覚障害者向けのさまざまなサービスを提供している「シュアールグループ」代表、大木洵人さん。「僕はそんな大きなことを成し遂げられるタイプの人間ではないんですよ。坂本竜馬のような豪胆さもなければ、エジソンのような発想力も持っていませんから。ただ、重要なのは"何を後世に残せるか"ってことだと考えています。いま有名になったって100年後には忘れられてますし、そもそも名前なんて残っても何の意味もないですから(笑)」

「いつの間にかスタンドプレーになっていた」

 このことばにサイショくんは、ドキッとした。「僕も世界を少しでもいい方向に動かすために立ち回っているが、要所要所でスタンドプレーっぽくなってしまうことがある」と思い出したのだという。

 人間なんだから、目立ちたい時もあれば落ち込む時もある。でも前に進むための方法や考え方、姿勢はひとつではないし、さまざまな考え方がある。気負いすぎるとつらいし、かといってだれもが聖人君子のように振る舞えるわけでもない。しかしこういう悩める若者たちがたくさん現れてきているのが2010年代の日本の側面のひとつだし、そういう転がる石たちの先に新しい日本はやってくるのだろうと思う。

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧

ビジネス

テマセク、欧州株を有望視 バリュエーション低下で投

ビジネス

イタリア鉱工業生産、5月は前月比0.7%減に反転 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story