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サム・ポトリッキオ Surviving The Trump Era
欧米はなぜもてはやすのか? 「ロシア反体制派のヒーロー」ナワリヌイの正体
ロシア国内ではナワリヌイの影響力はほとんどないが…… REUTERS
<非ロシア人に対する人種差別的発言を繰り返したアレクセイ・ナワリヌイが、欧米で英雄視されるフシギ。もしアメリカ人が同じような主張をしたら一発アウトなはずなのに......>
私がモスクワ以外で最後に訪れたロシアの地域はヤマロ・ネネツ自治管区だった。あまりの寒さに鼻と口が凍り、息もできないほどだった。反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイが文字どおり息絶えたのもここだ。
チャーチルはロシアを「謎の中の謎に包まれた謎」と呼んだ。それが本当なら、ナワリヌイは祖国を代表する人物だったことになる。私が教えている米ジョージタウン大学の昨年の卒業式で、ナワリヌイの娘が卒業スピーチの話者に選ばれたとき、ウクライナ人から激しい抗議があった。
ナワリヌイはロシアのクリミア併合を支持し、非ロシア人に対する人種差別的な発言を繰り返し、ロシア人とベラルーシ人、ウクライナ人は同じ民族だという反歴史的な偽りの主張もした。人種差別を理由にロシアのリベラル政党から追放されたこともある。
欧米の識者は「昔の話だ」のひと言で片付けるが、もしアメリカ人が同じような主張をしたら、たとえ過去の話でも一生批判を浴び続けるはずだ。人種差別的なナショナリズムを主張していた過去がありながら、欧米ではもてはやされる――。
この矛盾について私が数年前まで教えていたロシア国家経済・公共政策大統領アカデミーの教え子たちは、チャーチルと同様のロシアに対する無理解の典型だと言った。ロシアの平均的な有権者にナワリヌイについて尋ねれば、おそらく話すのも時間の無駄だと答えるはずだ。「得票率5%がせいぜいの政治家だろう?」と。
10年前、ナワリヌイの支持率はロシア全体で37%に達していた。だが、昨年2月の支持率はわずか9%だ。ロシア人の大多数は、ナワリヌイの投獄を公正な措置と考えている。ロシア政府にとって、ナワリヌイの死はある種の勝利だ。
私がよく話をするロシア人はこう言った。「ロシア復活ののろしが上がった。最前線での攻勢で戦局に変化が生まれ、欧米の支持は停滞し、プーチンにとって最大の『とげ』は除去された」
ロシアでの影響力はほとんどない
だが一方で、ナワリヌイが残した危機の火種もある。ロシア国民全体で見れば不人気だが、ナワリヌイはネットに精通した数百万人の反プーチン派ロシア人を味方に付けた。
ウクライナでの戦局は好転しつつあるが、侵攻開始から2年たっても、ウクライナが反ロシアの軍事的姿勢をますます強めている状況に変化はない。ロシアの軍事行動に対する否定的な見方は、日を追うごとに増えていくはずだ。
先日、ロシア大統領選に出馬表明したリベラル系政治家のボリス・ナジェージュジンが立候補登録を拒否された。ナジェージュジンはウクライナ戦争を「致命的誤り」と批判しており、無数のロシア人が極寒をものともせず街頭に出て支持を表明した。
ロシアの小説家ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』をアメリカ人監督がリメークした映画がロシアで劇場公開され、1カ月間で400万人が見た。観客は映画が終わると、大きな拍手を送っている。
国営メディアの人気司会者は、この映画を米情報機関の「特別作戦」と呼んだ。この人物の怒りは、間違いなく観客の熱狂的な反応に対する不安の表れだ。
ある識者はこう指摘した。「国家が全ての『独立した声』を本気で押しつぶそうとしている状況で、人々は明確な反全体主義、反抑圧的国家のメッセージを持つこの映画を体験し、見られたことを喜んでいる」
確かにロシア国内では、ナワリヌイの影響力はほとんどない。だがロシアにおける権力者の人気と力は、常に得体の知れないもろさと同居していることを忘れてはならない。
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