コラム

アファーマティブ・アクション廃止で本当に得するのは「富裕層」

2023年07月27日(木)19時00分

アジア系への差別撤廃を訴えるデモ隊(6月29日、ワシントン)EVELYN HOCKSTEINーREUTERS

<アジア系に対する差別が争点の1つとなった米最高裁判決。確かにアジア系は客観的項目の成績が優秀でも、その他の主観的項目で評価を下げられていることを示す根拠はある。だが現実はそれだけではなく......>

私の勤務するジョージタウン大学を中心とするカトリック系大学の連合は、差別是正措置(アファーマティブ・アクション)をめぐる訴訟の口頭弁論を前に米最高裁に意見書を提出し、大学の入学選考で差別是正措置を支持すべき明確な理由が4つあると主張した。

①(人種的)多様性はダイナミックな学習環境を生み出す。②(人種的)ステレオタイプを克服するダイナミックな成長体験を促す。③社会的少数派を支援することはカトリックの信仰に基づく道徳的義務である。④多様性は批判的思考の強化につながり、複雑な世界を乗り切るための学生の能力を向上させる。

だが、最高裁はこの意見を真っ向から否定。ロバーツ最高裁長官はこう指摘した。「多くの大学があまりにも長い間、個人のアイデンティティーは挑戦した課題でも獲得したスキルでも学んだ教訓でもなく、肌の色で決まると誤って結論付けてきた」

この6月29日の法的判断にエリート大学はこぞって最大限の憤りを表明したが、この大学側の姿勢は実は世論と懸け離れている。実際には、米国民の大多数が最高裁に同意しているからだ。

ピュー・リサーチセンターの2019年の調査によると、アメリカの成人の73%が最高裁の多数派意見と同様、大学は入学者選抜の要素として人種や民族を考慮すべきでないと考えていた。エリート大学の入学制度には不透明な部分が多い。実際、アイビーリーグ志望者の願書作成を手助けする入試コンサルタントやアドバイザーは、それを利用して大金を手にしている。

私の高校時代に成績が最も優秀だった同級生は、大学入学ビジネスで私の何倍も稼いでいる。有名弁護士を父に持つ彼は、自身も超エリート教育を受けた。今は自分が17歳のときに手際よくこなしたプロセスを実質的に繰り返すだけで、父親以上の収入を得ている。

最高裁判決の真の勝者は

入学選考の仕組みはさまざまだ。スポーツや音楽など、「一芸」に秀でた志願者には一定の特別枠が用意されているが、大半は一般志願者向けの入学枠だ。エリート大学志願者のサポートで何億ドルも稼いできたコンサルタントの1人によれば、選考の約30%は小論文と面接を含む共通出願書類、40%は成績とテストの点数を含む学業、30%は課外活動の履歴で決まるという。

ジョージタウン大学の差別是正措置は人種とジェンダーの両方を対象にしているが、他の超エリート教育機関と異なり、定量的な「ポイント制」も特定の入学枠も導入していない。ただし、ユニークな課外活動(例えば障害者支援)や経験(海外在住など)があれば、基本的に入学選考で有利になる仕組みになっている。

今回の差別是正措置をめぐる裁判では、アジア系に対する差別が重要な争点の1つだった。アジア系はテストの点数などの客観的項目の成績は優秀だが、性格やリーダーシップといった主観的項目で評価を下げられていることを示す根拠がある。

入学選考制度から差別是正措置が完全に撤廃されれば、アジア系のようなグループが大きな恩恵を受けるはずだという見方が広がっている。だが私は、真の勝者は私の高校時代の同級生のような入試コンサルタントだと確信している。

超一流のエリート大学では、入学者の属性に大きな変化は生まれないだろう。なぜなら、こうした大学はリーダーシップや課外活動のような主観的項目を重視する方向に選考基準を変える可能性が高いからだ。そうなれば人種に関係なく、私の元同級生を雇えるほど裕福な層が有利になることは間違いない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

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