コラム

ウクライナ戦争1年、西側メディアが伝えない「それでもロシアが戦争をやめない訳」

2023年02月21日(火)17時50分

世論調査によれば、ロシア人の3分の2がプーチンの部分動員令はごまかしだと考えているが、政権の支持率は過去20年間で最高に近いレベルを維持している。この数字は戦争の「日常化」を示す指標の1つだ。

ただし、不安はさまざまな形で表出するものなのかもしれない。私がロシア人の知り合いからよく聞く話の1つは、抗議運動は完全に沈静化しているが、最もよく売れている本のジャンルは反戦関連の書籍だというものだ。また、大多数のロシア人が戦争はうまくいっていると考えているが、インターネットで情報を入手する層ではこの数字がもっと低くなる。ただし、ネットを使いこなすロシア人の中でも、18~24歳の若者は59%が戦争支持派だ。

元同僚たちに戦争の見通しについて尋ねると、強硬な反戦論者からも戦争支持派からも共通の答えが返ってきた。最終的にはロシアが完勝するか、少なくともウクライナが国家の機能を完全に停止する形で停戦するので、いずれにせよロシアの勝利で終わるというのだ。ウクライナは欧米の援助で一時的に支えられているだけで、欧米から送られる大量の武器や資金がなければ消滅する、というのが彼らの共通見解だった。

そしてロシア側にはまだ、欧米がいずれ疲弊して降参するか、核戦争へのエスカレートやNATOとロシアの全面対決の可能性に怯えて立ちすくむという期待がある。ジョー・バイデン米大統領の再選を予想するロシア人は1人もいなかった。バイデンが最高司令官でなくなれば、米軍がウクライナへの支援を止める可能性はあるというわけだ。

さらに戦争が長引けば長引くほど、ロシアとウクライナの軍事力の非対称性がはっきりすると、彼らは言う。戦争が膠着状態になると、数の力でロシアが圧倒的優位に立つ。ウクライナはいずれ兵員が底を突くが、ロシアはウクライナが耐え切れなくなるまで兵力を投入し続けることができるというのだ。

ロシア人は国家を守るためなら、兵士の命を完全に使い捨てにする底なしの能力がある──この覚悟は自分たちのアイデンティティーの一部になっていると、ある元同僚は言った。第2次大戦の死者2700万人という数字は、勝利と名誉の象徴とされている。欧米では同胞の死は心を痛める出来事だが、ロシアでは勇気と信念の証しとして祝福に近い扱いを受ける。国家の存亡を懸けた戦争であることが明らかになった今、ロシアはウクライナでの敗北を決して受け入れないだろう。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界EV販売、3月は29%増 中国と欧州がけん引 

ワールド

中国、対米摩擦下で貿易関係の多角化表明 「壁取り払

ワールド

中国とベトナム、多国間貿易体制への支持を表明 鉱物

ワールド

IEA、今年の石油需要見通し下方修正 貿易摩擦で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 9
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story