コラム

やはり「プーチンを裏切った」代償? 止まらないロシア富豪の「奇怪な死」の連鎖

2022年09月23日(金)15時06分
プーチンとマガノフ

マガノフ(右)はプーチンから勲章を授与された人物だった MIKHAIL KLIMENTYEVーKREMLINーSPUTNIKーREUTERS

<自殺、儀式中の心不全、転落死、溺死......。相次ぐロシア「ビジネス界の大物の不審死」は、本当にプーチンへの裏切りの代償なのか?>

ソ連崩壊を決定付けた1991年のベロベーシ合意の立役者4人は、これで全員亡くなった──ゴルバチョフ元ソ連大統領が死去した2日後の9月1日、友人のロシア人ジャーナリストから、そんな冗談めかしたテキストメッセージを受け取った。

4人のうち、エリツィン元ロシア大統領以外の3人がロシアのウクライナ侵攻以降に死亡していると、彼は指摘した。友人は陰謀論嫌いで有名だ。だから、3人の死が何らかの意図に基づく可能性を問うことはせず、こう返信した。ウクライナでのロシアの残虐行為や失敗が明白になった時期に、3人が立て続けに亡くなったのは統計学的に不自然だ、と。

その日、ロシアのエネルギー業界の大物がさらにもう1人、謎の死を遂げていたことを、私はまだ知らなかった。

不審死した業界の重鎮はこれが6人目だ。今年4月には、天然ガス大手ノバテクのセルゲイ・プロトセーニャ元副会長がスペインの別荘で家族と共に遺体で見つかった。2月末には、原油・ガス事業で富を成したオリガルヒ(新興財閥)のミハイル・ワトフォードが、英南東部の自邸で首つり姿で発見。その3日前には、ガスプロム幹部がロシア国内で死亡している。

ロシアでの事件のうち、よく知られているのが、民間石油会社ルクオイルの役員アレクサンドル・スボティンとラビル・マガノフ会長の不審死だ。スボティンは5月、シャーマン(霊媒師)の儀式中に心不全で死亡したとされる。マガノフは9月1日、病院の窓から「飛び降り自殺」した。ルクオイルはウクライナ侵攻に対し、異例の反対を表明したロシア企業だ。

ウクライナ侵攻に抗議した人物の末路

ほかにも、エリツィン政権時代の民営化政策を率いたアナトリー・チュバイスがウクライナ侵攻に抗議して今年3月にロシア大統領特使を辞任して以来、トルコやイスラエルを転々とした末に、欧州で入院していることが先頃明らかになった。毒物を投与された可能性が指摘されている。

さらに9月12日には、ロシア極東・北極圏開発公社航空部門幹部のイワン・ペチョーリンがウラジオストク沖でボートから転落し、遺体で発見されたと発表された。

相次ぐ不審死は、エネルギー業界の人間が秘密作戦の金融面に関する情報をリークしている疑いがあるせいではないか、との見方が業界内では最も一般的だ。

一連の死は「標的殺害」なのか。あるロシア人評論家に意見を聞いたところ、ロシア政府とビジネス界トップの間の経緯を考えれば、単なる偶然ではないと誰もが思っていると、謎めいた答えが返ってきた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story