コラム

アメリカ大統領の支持率とペットの不思議な関係

2022年02月09日(水)11時02分

ホワイトハウスにやって来た「ウィロー」はバイデンの救世主になる? ERIN SCOTTーTHE WHITE HOUSEーHANDOUTーREUTERS

<バイデンがホワイトハウスに猫を迎えたが、ワシントンには支持率とペットの関係を裏付ける歴史的事実がある>

アメリカの大統領にとって、ペットは人気上昇の秘密兵器なのかもしれない。支持率の大幅な落ち込みに悩む現職の第46代バイデン大統領も、「モフモフ」に望みを託した。

なかなか収束しないパンデミック、ウクライナ国境でのロシア軍増強、議会工作の失敗まで、無数の困難に直面している大統領は切実に「リセット」を必要としている。

大統領一家は昨年末にジャーマン・シェパードの「コマンダー」を、今年初めに猫の「ウィロー」をホワイトハウスに迎えた。猫と同居する現職大統領は、9回の選挙で7回再選を果たしている。この選択はバイデンにとって吉兆だ。

真面目な読者の皆さんにこんなネタを書いて、と思うなかれ。大統領のペットと支持率の関係には歴史的事実の裏付けがある。アメリカの首都は世界で最も魑魅魍魎とした街で常に権謀術数がはりめぐらされている。そのためか、「支持が必要なら犬を飼え」と、ワシントンではよく言われる。

実際ホワイトハウスに住んだ最初の大統領ジョン・アダムス(在任1797~1801年)を筆頭に、大統領はほぼ全員がこの助言に従ってきた。大統領在任中にペットを飼わなかったのは、ジェームズ・ポーク(1845~49年)、アンドリュー・ジョンソン(1865~69年)、そしてトランプ前大統領の3人だけ。

米議会から弾劾訴追される不名誉を経験した3人の大統領のうち、ジョンソンとトランプの2人がペットを飼っていなかったのは偶然ではない。残りの1人、クリントン元大統領は「偽飼い主疑惑」に直面した。

クリントン家は大統領の不倫騒動の渦中に「バディ」というチョコレート色のラブラドール・レトリバーを飼うことにしたが、すぐにある噂が広まった。写真撮影のために飼っているふりをしているだけで、本当の飼い主は地下室で犬と一緒に暮らし、クリントンがホワイトハウスの芝生を歩いてヘリに乗るときだけ貸しているのだ、と。その直後、クリントンは弾劾訴追された。

ペットは大統領を政治的危機から救ったこともある。

フランクリン・ルーズベルト(1933~45年)が異例の4期目を目指す選挙で苦戦していたとき、大統領がスコティッシュ・テリアの「ファラ」をアリューシャン列島に置き去りにし、連れ帰るのに2000万ドルもの税金を使ったという噂が広まった。ルーズベルトは「私は自分が攻撃されても憤慨しない。家族もそうだが、ファラは許さない」と演説で明言。結局、選挙戦は楽勝に終わった。

ニクソン元大統領は上院議員時代の1952年、共和党の副大統領候補に選ばれたが、不正な政治資金を隠しているという疑惑が浮上した。ニクソンは演説で疑惑を否定しなかったが、代わりにこう言った。「確かに選挙後『贈り物』を受け取った。テキサスから送られた木箱に入った小さなコッカー・スパニエルで、黒と白の斑点があり、6歳の娘トリシアが『チェッカーズ』と名付けた」。ほとんどの有権者は犬のイメージしか記憶に残らず、スキャンダルはすぐ沈静化した。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story