コラム

パンデミックのさなかに世界を旅して

2021年12月15日(水)16時09分

ロサンゼルス国際空港に設置された新型コロナの検査場 MARIO TAMA/GETTY IMAGES

<2年で100万マイルを旅してきた筆者が新型コロナ禍で味わった不自由な日々に思うこと>

ジョージ・クルーニーが演じる映画『マイレージ、マイライフ』の主人公は、航空会社のマイルをためることを人生の目標にしている。

この映画を見て、私のほうがすごいと思った。以前、東京の空港ラウンジであるビジネスマンが、今度のワシントンへのフライトで100万マイル到達すると自慢しているのを聞いた。彼は何十年も仕事をしてきたそうだが、私は通常2年以内に100万マイルを超える。

新型コロナウイルスが蔓延して空の旅ができなくなる直前には、1年で100万マイルを移動するペースだった。その後、移動距離は減ったものの、それでも数十万マイルを記録した。

カムチャツカ、アブハジア、オセチアのような新しい場所を訪れる一方で、ウズベキスタン、カタール、ルーマニア、トルコ、イタリアなどのおなじみの場所にも行った。しかも、ほとんどの旅が小さな子供連れだ。

ここで自分がどんな生き方をしているかを考えてみたい。私は何者で、何のために生きているのか──この質問に答えられる状態であれば、新鮮な気持ちと活力と元気を保つことができる。

新型コロナの流行初期に旅ができなくなったことは、私にとって大きなショックだった。国際線の長距離移動は仕事の一部という以上の意味があったからだ。

毎週異なる都市を訪れ、異文化を学び、魅力的な人々と出会い、旧友と交流する──それが不可能になり、私は自分の一部を失った。

私の頭には白髪が少し増えた。世界中を飛び回り、普段会うことのない人々を集めて講義をすることこそ、私のパワーの源泉だった。プロとしての核心的アイデンティティーを失い、私は老いたのだ。

経験豊富な分野では、自分の直感を信じるべきだ。新型コロナの蔓延が始まった頃、私はロシアへの、新婚旅行を兼ねたビジネストリップを3月下旬に予定していた。3月半ば、私は妻(当時は婚約者)に、「状況が悪化する前、今日のうちに飛行機に乗らないといけない」と話した。

彼女は心配性すぎると笑ったが、早く一緒になりたい気持ちは同じだったので、航空券を購入した。旅や国際的規制に対する私の直感は長年の旅で培われたもので、その直感は当たった。

パンデミックのさなかに幼い子供を連れて世界中を旅したのは、これまでの人生で最もやりがいを感じた時間だった。新型コロナ検査の偽陽性や判定の遅れで予定が狂ったり、怒りを抑え切れない出来事もあった(一部の国の300ドルの検査がほかの国の20ドルの検査より質が低かったことや、無意味な渡航禁止など)。

目まぐるしく変わる旅のルールや規制に振り回されたが、それでも私たちは耐えた。パンデミックの混乱の中で、私たちは悟った。何があっても最善を尽くし、一瞬一瞬を大切にすること。困難な状況を楽しめる不屈の精神を持つこと。なぜなら人間としての価値や豊かな人生は、試練にどう対応するかで決まるのだから。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story