コラム

超保守派のスーパーウーマン......最高裁判事候補バレットとは何者か?

2020年10月22日(木)18時00分

公聴会で頭脳明晰ぶりを発揮したバレットだが MICHAEL REYNOLDS-POOL-REUTERS

<米社会の主流から乖離した時代遅れのイデオロギーに関する質問は無視するなど、パフォーマンスは極めて戦略的>

アメリカが主要な民主国家の中でも群を抜く政治的分断の渦中になければ、エイミー・コニー・バレットの連邦最高裁判所判事への指名承認プロセスは才気あふれるスーパーウーマンをたたえる晴れの舞台となっていたはずだった。48歳という異例の若さで法曹界のトップに抜擢された彼女は、ハイチからの養子2人を含む7人の子供を育てながら、同僚や元教え子から愛すべき友人として絶大な信頼を集めている。

承認をめぐる公聴会で厳しい質問を難なくかわす優雅な態度からも、バレットの明晰な頭脳は明らかだ。彼女はメモを見ることも、次々に浴びせられる質問を書き留めることもなく答えを繰り出し、メモを参照しないのかという上院議員の問いに真っ白のメモ帳を掲げてみせた。資料を読み上げるばかりだった議員らはもちろん、トランプ政権が過去に指名した2人の最高裁判事候補と比べても圧巻のパフォーマンスだ。

しかも、バレットはエリートらしさをひけらかさない。最高裁判事の中でアイビーリーグ出身でないのは彼女一人。激しく分断された今のアメリカで、世論がバレットに好意的なのも不思議ではない。

一方で、見事なパフォーマンスは極めて戦略的なものでもある。バレットの立ち位置はアメリカの主流から乖離した時代遅れなもので、人工妊娠中絶と同性婚を認めない可能性が高い。公聴会でも同性愛者にとって侮辱的な表現を口にし、民主党議員からの批判とネット上の猛反発を浴びた。

米国民の多数派の考えと一致しないという問題を回避するためにバレットが取った作戦は、自身のイデオロギーが少数派であることがあらわになる質問を無視すること。彼女は自身を指名したトランプ大統領との見解の相違についても回答を避けた。

平和的な権限移譲を行う、有権者が投票所で威嚇される事態はあってはならない、大統領が自身に恩赦を与えることはできない、といった点についてトランプが明言すべきか否かについて、回答しなかったのだ。最高裁判事に就任する人物が憲法上の明白な真実を明言することさえ拒んだという事実は、トランプ政権下でアメリカの民主主義が激しく損なわれた現実を映し出している。

バレットの指名が論争の的であり、最高裁そのものも批判を浴びているという認識は誰もが共有している。バレットを選び、承認した当の共和党は4年前、大統領選の年に終身制の最高裁判事を承認すべきではないと主張し、オバマ大統領(当時)に承認を見送らせた。公聴会を開催した上院司法委員会のリンゼー・グラム委員長は2年ほど前、トランプ政権1期目の最後の1年には最高裁判事の承認を行わないと約束したが、嘘だった。バレットが今後素晴らしいキャリアを築いても、大半の民主党員は正統な最高裁判事と見なさないだろう。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、取り調べで沈黙守る 録画も拒否=捜査当

ビジネス

訂正(会社側からの申し出)-パナソニックHD、AI

ワールド

イエレン氏、米コロナ対策支出を擁護 「数百万人の失

ワールド

ECB、利下げ継続の公算 リスクには慎重に対応へ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローン…
  • 6
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 7
    日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 10
    中国自動車、ガソリン車は大幅減なのにEV販売は4割増…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 10
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story