コラム

不正入学事件が浮き彫りにした、平等の国アメリカの不平等な現実

2019年03月30日(土)16時00分

クシュナー(手前)とトランプは本当に実力で一流大学に入学したのか? Kevin Lamarque-REUTERS

<成功するチャンスは誰にでもあるはずだったのに、資産家が資金力で子供を一流大学に送っていた>

アメリカン・ドリームを夢見ている人は、アメリカよりカナダや北欧に行ったほうがいい。

アメリカは本来、貧しい家庭に生まれても大金持ちになるチャンスがあることを誇りにしてきた国だ。「機会の平等」を重んじる理念は、アメリカ独立宣言にもうたわれている。成功するチャンスは誰にでもある......はずだった。

しかし、この理念が揺らいでいる。裕福な家庭の出身で学業成績が冴えない若者と、貧しい家庭の出身で成績トップクラスの若者は、大学卒業率に違いがない。それが今日のアメリカの現実なのだ。

いま騒ぎになっている不正入学スキャンダルは、こうした不平等が生まれる仕組みを白日の下にさらした。裕福な親が子供を一流大学に入学させるために、入試コンサルタントを通じて試験監督者や大学のスポーツチームのコーチに「裏金」を支払っていたことが発覚したのだ。

裏金と引き換えに、試験監督者がテストの正解を教えたり、スポーツチームのコーチがスポーツ特待生制度を悪用したりして不正入学を手助けしていた。中には、全くプレー経験のないスポーツの特待生として入学を認められた学生もいた。

私が勤務しているジョージタウン大学では、テニスの元コーチが総額270万ドル以上の裏金を受け取り、裕福な家庭の子供を少なくとも12人入学させていた。その多くは、入学後は一度も大学代表としてテニスの試合に出場していない。

この事件では、有名女優や有力法律事務所のトップ、金融界や実業界の大物などが起訴されている。これらの資産家の子供たちは、親の資金力で実現した不正の助けがなければ、一流大学に合格できなかっただろう。

もっとも、アメリカのエリート大学の入学者選考が能力以外の要素に左右されるのは、今に始まったことではない。親が卒業生なら有利になるし、親が多額の寄付をすれば合格の可能性は大幅に高まる。

不当に席を奪われた怒り

トランプ大統領の義理の息子ジャレッド・クシュナーがハーバード大学に入学できたのは、出願直前に父親が250万ドル寄付したからだと言われている。高校時代の成績はぱっとせず、ハーバードなど論外だと、高校の教員たちは誰もが思っていた。

トランプ自身も、成績は精彩を欠いていたのにペンシルベニア大学に入学できた。当時のSAT(大学進学適性試験)の成績が公開されれば裁判に訴えると強硬に主張しているのは、おそらく点数が低かったからだろう。SATの点数が公開されれば、一流大学に合格できたのは父親の経済力のおかげだったと分かってしまう。

今回発覚した不正入学スキャンダルが激しい怒りを買ったのは当然だ。大学を目指す若者が増えるのに伴い、入試の競争は激化している。その中で志望校に入学できなかった若者たちは、本来なら入学する資格のない人たちに席を奪われていたことに気付き始めたのだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

TikTok、米での利用遮断を準備中 新法発効の1

ビジネス

独成長率、第4四半期速報0.1%減 循環・構造問題

ワールド

米国の新たな制裁、ロシアの石油供給を大幅抑制も=I

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、11月は前月比+0.2%・前年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローン…
  • 6
    韓国の与党も野党も「法の支配」と民主主義を軽視し…
  • 7
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 8
    【随時更新】韓国ユン大統領を拘束 高位公職者犯罪…
  • 9
    中国自動車、ガソリン車は大幅減なのにEV販売は4割増…
  • 10
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 10
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story