コラム

SDR狙いで進む?中国の金融自由化

2015年10月29日(木)17時00分

金融緩和や預金金利自由化でIMFに秋波を送る中国人民銀行 Petar Kujundzic-REUTERS

 中国人民銀行(中央銀行)は追加金融緩和と預金金利の自由化を実施しました。前者は景気対策であり、後者は金融改革と位置付けられています。預金金利自由化の歩みは2014年11月以降スピードアップしました。2015年8月11日の人民元対米ドル基準レートの算出方法の変更と併せて、その根底には、中国が熱望する人民元のSDR(特別引出権)採用に向けたIMF(国際通貨基金)に対するアピールがあったと見ています。

 中国人民銀行は10月24日、追加金融緩和を実施しました。1年物貸出基準金利は0.25%引き下げ4.35%に、1年物預金基準金利は0.25%引き下げ1.50%としました。利下げは2014年11月以降6回目です。金融機関の預金準備率は0.5%引き下げられ、大手行の預金準備率は17.5%となりました。

 中国人民銀行は、今回の利下げは景気下振れリスクと物価下落を考慮したとしています。7月~9月の実質GDP成長率は前年同期比6.9%と6年半ぶりに7%を下回り、1月~9月のGDPデフレーターは同0.3%のマイナスでした。このタイミングでの追加緩和は、景気減速が続くなか、中国共産党中央委員会の重要会議である五中全会(10月26日~29日)を前に、中国政府として打てる手を打っていることをアピールする狙いもあったのだろうと考えています。

預金金利の自由化は一応完了

 預金準備率引き下げは市場への資金供給が目的です。外国為替資金残高は、中国人民銀行が市中銀行の外貨を購入し、見合いの人民元を供給した金額の残高です。2014年後半以降、外国為替資金残高は純減となることが多く、2015年8月は7,238億元(約1,133億米ドル)、9月は7,613億元(約1,197億米ドル)もの純減となりました。外国為替市場で大規模な元買い・ドル売り介入が実施されていることが主因の一つでしょう。当局が何もしなければ金融引き締めとなり、中国人民銀行はオペなどを通じて金融市場に資金供給を行っていますが、長期資金の供給には、預金準備率引き下げが有効な手段となります。大手行の預金準備率は引き下げ後も高水準であり、追加引き下げ余地は依然として大きいとみています。

 さらに、今回は金融機関の預金金利上限が撤廃されたことが特筆されます。貸出金利は2013年7月に自由化されましたので、これで預金金利の自由化も一応完了したことになります。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story