SDR狙いで進む?中国の金融自由化
では、銀行は自主的に金利を決定できるようになるのでしょうか?少なくとも当面はNOです。やや古い話となりますが、2015年3月13日付けの現地紙は、「銀行の調達コストを抑制し、貸出金利の引き上げを回避するために、中国人民銀行は一部の中小銀行に対して、預金金利の上限(当時は預金基準金利の1.3倍が上限)を適用しないよう、窓口指導を実施した」旨を報道しました。真偽の程はともかく、このような報道がなされること自体、銀行が自主的に金利を決定することの難しさを物語っています。
中国人民銀行は、金利の自由化・市場化に向けた過渡期として、今後しばらく貸出・預金基準金利の発表を続けます。そして貸出金利について、将来的には、上海銀行間市場の貸出基礎金利(LPR=Loan Prime Rate)などを参考に金利が自主的に決定されていく姿を描いています。貸出基礎金利は市場での金利形成促進を目的に2013年10月25日に公表が始まり、主要行のプライムレートから算出されます。主要行とは国有商業銀行を中心とする大手行であり、当局の「窓口指導」の絶大な影響力は温存されると見られます。貸出・預金金利の決定に、「窓口指導(当局の意向)」が大きな影響を与える状況に変化はないでしょう。
金融改革の進展をアピール
それでも表面的であれ金利自由化は完了しました。預金金利は長らく固定金利でしたが、2004年10月に基準金利を下回る金利設定が可能になり、2012年6月に上限が基準金利の1.1倍に、2014年11月に1.2倍に、2015年3月に1.3倍に、5月に1.5倍に引き上げられ、8月に1年超の定期預金金利の上限が撤廃されました。そして今回、預金金利の上限がすべて撤廃されました。上限が引き上げられ始めてから僅か3年4ヵ月、特に金融緩和が始まった2014年11月からのスピード感には目を見張るものがあります。
このスピード感の背景には、人民元のSDR採用を決定するIMFに対して、中国の金融改革が進展していることをアピールする狙いがあるかもしれません。SDRはIMF加盟国の準備資産を補完する手段で、リーマン・ショック後の世界的金融危機の際には世界の経済・金融システムに流動性を与え、IMF加盟国の外貨準備を補完するなどの役割を果たしました。現在、その価値は米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円の国際通貨バスケットに基づいて決められています。そして2015年は5年に一度のIMFのSDRバスケット構成通貨の見直しのタイミングです。世界第2位の経済大国となった中国は、人民元にそれにふさわしい地位を与えるために、SDRへの採用を熱望しています。金利自由化はSDR採用の条件ではありませんが、採用に向けたアピールになるでしょう。
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