コラム

米社会の移民「ペット食い」デマ拡散と、分断のメカニズム

2024年10月09日(水)11時40分

3つ目は敵味方の論理です。これは交戦国のナショナリズム、抗争中の党派の論理と同じことであり、とにかく「犬猫食い」のコメントに対して怒るのか、従うのかで、敵と味方を峻別する効果があるのだと思います。

4つ目は、格差の問題です。この発言について「移民への差別」だとか、「多様性は尊重すべきだ」というような概念を使ってくる人は、「一定程度以上の高学歴」に限定されます。その一方で、「移民が犬猫を食べる」という話に乗ってくる中には、教育が受けられなかった層、ニュースなどの情報に接する機会のない層も含まれるかもしれません。

そう考えると、この種の「放言」に「目くじらを立てる」人は「持てる側」であり、真面目に「それは大変だ」と思ってしまう人の中には「持たざる人」が含まれている、そうした印象を持つ人もあるかもしれません。そこで論理を少し飛躍させると、この種の暴言を拡散することが「格差への異議申し立て」になるという勘違いが生まれるわけです。


マジレスすればトランプ側の思うツボ

問題は、この種の暴言に対してどうやって対処したら良いのかということです。これまでのアメリカでは、リベラルの側が「真面目に受け止めて思い切り怒る」という対応をしてきました。ですが、それではトランプ側の「怒りのエネルギー」にガソリンを投入したような形となり逆効果となっています。

では、これを「情弱が自滅に向かって一線を越えているだけ」だとして、無視すればいいのかと言うと、それでは結局はデマ暴言の拡散を許すことになります。そこまで怒っているのなら「あなた方が改めてグローバル社会とデジタル化に適応するように再学習の機会を与えてあげよう」という「恩恵」を示すということも考えられますが、2016年にそれをやったヒラリー・クリントン氏はかえって激しい反発を食らいました。

いずれにしても、この種の問題を話題にし続けてはアメリカの分断は悪化するばかりです。本来の政策論争、つまり景気、物価、雇用というテーマに立ち返って、事実に基づいた主張と、対策の競い合いが生まれること、分断を解決するにはそれが一番だと思うのです。

【関連記事】
サプライズはゼロだった米副大統領候補の討論会
解雇規制緩和はジョブ型雇用とセットでなくては機能しない

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を

ビジネス

米11月総合PMI2年半超ぶり高水準、次期政権の企

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story