コラム

好発進の民主党ハリス候補、打倒トランプのカギは「格差問題」

2024年07月24日(水)11時45分

バイデンからバトンを渡されたハリスは記録的な寄付を集めた Mike De Sisti/Milwaukee Journal Sentinel/USA TODAY NETWORK-REUTERS

<国内の格差問題に敏感な党内左派を味方に付け、トランプ/バンスという難敵と戦わなければならない>

米東部時間の7月21日午後、バイデン大統領は再選へ向けた選挙戦からの撤退を表明し、直後にカマラ・ハリス副大統領を自身の後継に指名しました。ハリス氏については8月19日からシカゴで行われる民主党の全国大会で、代議員の過半数の指名を受ける必要があり、下手をすると候補が乱立して党内が混乱する可能性も指摘されていました。

ですが、大統領選への立候補表明後24時間で、ハリス氏の陣営には8100万ドル(約127億円)という記録的な寄付が集まる一方で、党内では続々支持が集まっているようです。非公式ですが、既に候補としての指名に必要な代議員数を確保したという報道もありますし、23日にウィスコンシン州で行われた大統領候補としての初の演説会も好評でした。


ということで、予想以上に幸先の良いスタートを切った格好のハリス氏ですが、この先、本選でトランプ候補を倒すためにはどうしても避けて通れない問題があります。それは、国内における格差の問題です。

ハリス氏の当面の活動は、23日の演説でもそうでしたが、人権派の鬼検事という自身のイメージを最大限に発揮して、中絶や人種の問題を中心にトランプ候補と激しく渡り合う作戦が中心となりそうです。これによって、女性や有色人種の票をまとめきるというのが狙いです。

勝敗を左右する「スイング・ステート」

ですが、いかに切れ味の良いトークでトランプ氏に対抗するにしても、これだけでは勝てません。特に勝敗を左右すると言われている「スイング・ステート」、つまり民主党と共和党が拮抗している接戦州で勝つには、もう1つの大きなテーマで論戦に勝つ必要があります。それは国内の格差問題です。

現在のアメリカは、コロナ禍に対してトランプ、バイデンの両政権が実施した巨額のバラマキの結果、カネがまだ惰性で回り続けています。その結果として景気は過熱気味で、物価は高止まりしています。全体の数字は良いのですが、物価が下がらないことで年金生活者の一部や貧困層からは、生活の苦しさを訴える声が続いています。また大学卒の若者の就職も難しい中で、奨学金の負債に苦しむ層もあります。一方で、ハイテクの進歩による自動化、とりわけAIの実用化などで従来型の雇用には揺らぎが見えます。

これに対して、ハリス氏の本来の政策はグローバリズムと知的産業に寄り添うものでした。つまり、国際分業を認め、知的な産業で国内競争力を拡大して、全体の経済はトリクルダウンで回すというクリントン路線に近い考え方です。自由経済こそがアメリカの活力であり、人々には機会の均等を保証し、良い意味での競争を通じて全体を活性化するというわけです。

ハリス氏が問われているのは、この考え方だけでは、2つの敵に攻め込まれてしまうという問題です。2つの敵とは、民主党内の左派と、トランプ派のことです。まず民主党内の左派は、国内の格差問題に非常に敏感です。医療保険が部分的に民間の営利企業によって担われている現状(オバマケア)に反発し、奨学金ローンには徳政令を要求、富裕層への課税を強化して再分配を強化するというのが彼らの主張です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story