コラム

日本の大学にもパレスチナ支持デモが広がっているが......

2024年05月22日(水)15時15分
カリフォルニア大学デービス校

アメリカの反イスラエルデモは依然として全土で続いている(写真はカリフォルニア大学デービス校) Penny Collins /REUTERS

<日本政府は一貫してパレスチナと「二国家解決」を支援してきており、イスラエルを軍事支援している米政権、民間資本とは立場が全く違う>

イスラエル国軍(IDF)によるガザ地区への侵攻に抗議するデモが日本の大学キャンパスでも起きているようです。報道によれば少なくとも早稲田、青学、東大では動きがあり、早稲田では大隈像の前での活動、青学ではガザ問題に関する本を読もうという「本読みデモ」、東大では「パレスチナ連帯キャンプ」が出現したようです。

これは勘違いだとしか言いようがありません。

実際は、各大学数名の小さな動きなのかもしれません。ですが、参加せずに行き過ぎる他の学生が、「本当は参加したいのだが、就職などを考えるとできない」などという、無意味な無力感を感じたりするというのであれば、本当に無駄なことです。


 

まず、日本の場合はアメリカの大学生とは全く立場が異なります。アメリカのバイデン政権は、公式にIDFの軍事行動を支持しています。バイデン大統領は、学生たちの影響力を恐れて、ネタニヤフ政権に対して「民間人犠牲は困る」というような懇願はしています。ですが、公式にはIDFの行動を支持し、しかも巨額の軍事援助を行っています。

さらに言えば、アメリカは今回主要国が賛成に回っているパレスチナの国連加盟にも反対しています。何度も出された国連総会や国連安保理における「即時停戦勧告決議」にも一貫して反対しています。また、アメリカの巨大金融機関はやはり直接・間接にIDFの軍事行動に関わる資金の流れに関与しています。

パレスチナを支援してきた日本

ですから、アメリカの学生たちは運動を通じて現政権に強く反対しています。また、イスラエルと親しい金融機関などから大学が献金を受けることにも強く反対しているのです。一部には、運動は無意味だなどという声もありますが、この間に運動が盛んになったことは、明らかにバイデン大統領へのプレッシャーになりました。

一方で、日本の政策、あるいは国是は全く異なります。

まず日本はパレスチナ自治政府をかなり初期の段階から承認していただけでなく、現時点でも最大の支援者となっています。これは経済援助だけではありません。歴代の首相や外相は、パレスチナとの首脳外交を頻繁に行っています。また中東歴訪の際には必ずパレスチナを訪問し農場の視察などをしています。

また、日本が主導して「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」という枠組みも作っています。これは、「二国家解決による和平実現に向けて、東アジア諸国のリソースや経済発展の知見を動員しパレスチナの国づくりを支援」する目的で2013年2月に発足した地域協力の枠組みです。日本、韓国、中国、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアが参加しています。

皇室外交も盛んであり、今上天皇の即位礼に際してはパレスチナ自治政府のアッバス議長が参列しています。国連外交においてもこの姿勢は一貫しており、日本の国連代表部は、パレスチナの国連加盟、そしてガザにおける即時停戦に関して常に賛成の立場を取っています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story