コラム

共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

2024年05月15日(水)11時45分

これは根絶しなくてはなりません。この文化のために「再婚した親は面会権を返上する」という慣習も一部にはありますが、これも「共同親権時代の子供の利益」とは相容れません。とにかく、共同親権を運用する以上は「夏休みだけ同居する、妻の前夫との子」に対して実父のように立派に振る舞う、いや真剣に愛情を注ぐことが「例外的な聖人君子」ではなく、こちらが「社会の常識」ということを強く確立すべきです。

この問題は密室内の陰湿な問題として起きがちであり、子どもが成人するまでの期間限定の問題ではあります。ですが、徹底できなければ見えないところで子どもの幸福を大きく損ねますから、社会として強く留意すべきです。「血の繋がりのない子を愛せない」という人もいるかもしれないし、そのホンネを隠す強さが持てないという人もいるのは現実だと思いますが、こちらは、その人を支援するカウンセリングなどの仕組みで対処する問題だと思います。


 

2つ目は、共同親権を認めることで外国人の元配偶者の横暴を許容する危険です。まず、国際間の離婚訴訟についてですが、これまでは日本が共同親権を認めていないからという理由で、主として欧米の場合はその欧米の国で離婚訴訟が行われるケースが多かったのでした。その結果、日本人の親としては不利な判決に甘んじることも多くありました。これは、今回の制度改定で改善することができますし、必ずそのようにするべきです。

また、これから共同親権を認めて、過去の事例にまで遡及させると、日本に在住している子どもを外国と「行ったり来たり」させる要求を拒むのが難しくなります。その場合に、外国人の親が子どもの日本語の学習を妨害するなど、あの手この手で子どもに影響力を行使して、最終的には紛れもなく日本人である子どもを「他国の社会に取られてしまう」事例が出てくる懸念があります。これは、日本人の親の利益の喪失だけでなく、人口減、人材難に苦しむ日本社会としての損失になります。

日本の外交当局は、国際結婚が破綻した場合に日本人の親が非合法的に子どもを日本に連れ帰る「連れ去り事例」について、世界各国からの手厳しい批判と執拗な要求に疲弊してきました。その長く辛い歴史には同情しますが、だからといって「赤い靴」の歌のように日本人の子どもを他国に渡して平気だというのでは、明らかに国益を毀損します。子の利益のために良かれと思って共同親権を導入したら、結局は棄民政策になったなどというのでは、冗談にもなりません。この点については強く警戒しなくてはならないと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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