コラム

日本を衰退に追いやる「中抜き」経済を考える

2024年02月07日(水)15時00分

本当の意味での付加価値を産まず、GDPへの貢献も薄い事務仕事はDXによって大幅に効率化すべきです。その上で多くの人材を現場へ回すとともに、中抜き経済を止めることで現場では大幅な賃金アップと労働時間削減を達成する、そのような方向です。

効率化はDXにとどまりません。どの会社にもある会計、給与計算、在庫管理などは、業界や企業ごとに「自己流の事務スタイル」が確立していますが、これを標準化して自動化や外注化を進めるのです。DXと合わせて大幅な効率アップが期待できます。グレーゾーンを、個々の企業や業界が勝手に解釈してコストや納税額を削減し、そのことを隠すためにコソコソ紙で計算したり、社員がサービス残業したりというムダも追放できます。

そのようにして、100人いた事務部門を10人に減らすことで、「中抜き」つまり中間業者を限りなくゼロにして、その分を上乗せして現場に支払うのです。同時に、そこで出てきた90人の人材を現場仕事に回して人手不足に対応することができます。

 
 

現場仕事というのは、工場の生産ラインやドライバー、建築現場、観光のサービス現場などに加えて、高い付加価値を生み出すイノベーション関連の技術者、付加価値を伴う情報のマネジメント、工芸家、シェフ、一流のソムリエやコンシェルジュ、更には高付加価値農業や環境ビジネスなども含みます。これに伴って、ドライバーや職人の社会的・経済的地位を、工芸家やテック技術者と同等に上げてゆくことも必要だし、可能になってくると思います。

社会をどうやって誘導するか

問題は、そのような方向へと社会をどのように誘導するかです。全体の設計としては、高い価値を生み出す現場仕事に見合う、専門職を育成する社会へとシフトする方向になると思います。教育が良い意味での職業教育になり、手に職をつけた若者を社会に送り出し、社会は専門職としてそのスキルを評価するような社会、つまり公平で流動的な労働市場が開かれた社会にするのです。

成功の鍵は、現在、日本語による原本、様式、ハンコに囲まれた事務仕事に縛り付けられている人材を、やり甲斐と高収入を伴った専門職として価値を生む現場へとどうやって移すかです。解雇規制を緩和して痛み先行で進めるのは得策ではありませんし、何よりも社会を暗くします。そうではなくて、どんどん成功事例を作って、多くの人が安心して追随できるようなトレンドを生み出す作戦が必要と思います。最低でも収入倍増になるような政策が必要です。

このまま膨大な事務部門を維持しつつ、そのコストをまかなうために「中抜き」を続けて現場を疲弊させていては、日本の国内経済は衰退が加速するばかりです。今こそ、トレンドを転換するタイミングだと思われます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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