コラム

大統領選でも引きずる米政治の「コロナ禍後遺症」

2024年01月17日(水)14時15分
デサンティス

コロナ対策に「反対」した実績を訴えるデサンティス(写真は昨年7月31日) Andrew Cline/Shutterstock

<コロナ対策の政治的評価は、大統領選が始まった今でもアメリカ政治に影響を及ぼしている>

日本では、昨年9月に新型コロナの5類移行と同時に、政府の対策分科会などが解散し、これに合わせてコロナ禍への対策に注力していた専門家グループも退任しました。それから少し時間が経過し、現在はコロナ禍の期間中における政治と専門家の役割分担を振り返る段階に来ているようです。

これだけ長期に渡ったコロナ禍ですから、日本では政府の行動に関する再評価は必要だと思います。緊急事態宣言や、まん延防止宣言の効果とコストの検証をはじめ、菅義偉政権が五輪の無観客開催を受け入れた判断、2020年春の学校一斉休校騒動の評価、ワクチンや治療薬開発で国産が遅れたことへの反省など、様々な論点は残されたままです。


考えてみれば、コロナ専門家、つまり感染症の研究者の使命は、感染症から1人でも多くの人命を守ることです。これに対して、社会的、経済的な観点も加えたトータルで人命を守る最善手を提案するのは政治の仕事です。コロナ禍を通じて、国民全員に対して対策の負担の理解を求める仕事も政治の責任です。政治が、そうした責任を果たさず、専門家に国民との対話を委ねたことは無責任であり、この点の反省は欠かせません。さらに、コロナ禍初期に経済活動の停止や完全鎖国を主張した一部野党の反省も足りないと思います。

それはともかく、政局という観点からは、日本の場合はコロナ禍という問題はそろそろ「過去形」になってきました。ところが、アメリカでは今回の大統領選でもそうですが、政治がまだ「コロナ」を引きずっているところがあります。

ファウチ博士を罵倒するデサンティス

代表的なのは、今回のアイオワ党員集会(結果については、ほぼ想定内というのが多くのメディアの見方ですが)で辛くも2位に踏みとどまったフロリダ州のデサンティス知事です。デサンティスの自慢は、フロリダ州でコロナ対策を行ったのではなく、その反対を行ったという「実績」です。つまり、ワクチン接種やマスク着用といった対策を「強制するのを禁止」するという法律を制定し、併せてレストランやスポーツジム等の営業を早期に許可した、これが自分の全国に誇る実績だとしています。その上で、全国を「フロリダ化する」ために、自分は立候補しているという言い方もしています。

デサンティスは、トランプ、バイデンの両政権に仕えた専門家のアンソニー・ファウチ博士を「憲法違反の悪」だとして、今でも罵倒し続けていますし、こうした「アンチ対策」の姿勢が「自分こそ究極の自由の擁護者」だということを示していると胸を張っています。また、当時のトランプ政権が、ワクチンのスピード開発をやり、対策予算で財政を悪化させたとして、この点に関してはトランプ政権に「非がある」としています。

一方で民主党の側の「コロナ禍対策への評価」は正反対です。例えばバイデン大統領は、コロナ禍対策からポストコロナへの経済の回復、雇用の回復を主導したのは自分だとして胸を張っています。ただ、この経済の回復に向けて、余りにも積極的な資金投下を行ったことが、筋の悪いインフレの原因だということは、大統領には反省はないようです。

仮に民主党内で候補選びをやり直す場合は、真っ先に名前が上がるであろう、カリフォルニア州のニューサム知事の場合も同様です。ロックダウンを批判して共和党が起こしたリコール投票を一蹴したことも含めて、コロナ対策の実績が支持されているというのが、この知事の自負のようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story