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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
岸田首相夫人の単独訪米、その後に求めたい2つのこと
ホワイトハウスでジル大統領夫人と桜の木を植樹した裕子夫人(4月17日) Leah Millis-REUTERS
<準公人として外交を担ったのだから、その成果を国民に説明する必要がある>
岸田文雄首相の裕子夫人が、アメリカのジル・バイデン大統領夫人の招待により、単独で訪米しました。首脳の配偶者は準公人であり、政治的な内容にも踏み込んで外交の一端を担うのは、少なくともG7参加国では共有されている考え方です。ですから、このような外交を否定するのは現実的ではないと思います。
例えばですが、日本が議長国となった前々回の洞爺湖サミット(2008年)では、首脳配偶者向けのプログラムとして「茶の接待」とか「イタリアンレストランでの昼食会」といった、社会貢献の意味合いが感じられないイベントが並べられたことがありました。そのため、まるで王侯貴族が浪費をしているようだと、各国メディアにより批判的な報道がされたことがあります。
そうした失敗事例と比較しますと、今回の岸田裕子氏の活動は、他でもない5月に予定されている広島サミットにおける配偶者外交の「下打ち合わせ」という実質的な内容があったと考えられます。
また、訪米中の行動についてはかなり精力的と言えるものでした。まず、バイデン大統領夫妻への表敬に続いて、ホワイトハウスにおける桜の記念植樹が行われました。また、黒人大学として伝統的に評価が高いハワード大学で、日本語を学習し日本に短期留学していた学生との懇談を行うとか、在米の学識経験者や経済人である日本人女性のグループと懇談するなど、内容的には意味のある滞在であったようです。
その一方で、日本の場合は社会的な地位の高い人物の「配偶者の役割」ということについて、社会的な合意はありません。ですから、よほど注意して振る舞わないと、配偶者の登場は公私混同だという批判が出てしまいます。まして、生涯未婚率が男女ともに上昇中の「ソロ社会」である以上は、配偶者外交というものに共感しない世論が、より厳しい目を向けてしまう可能性があります。
世論とのコミュニケーションを
一番良くないのは、そうした批判を避けるために、「招待を断る選択はない」とか「日米関係にはプラス」という「言い訳的な説明」をすることだと思います。また、対外的には「いかにも日本も配偶者外交を丁寧にやっている」という姿勢を見せつつ、国内的には、理解されることの難しい配偶者外交をあまり大きくアピールしないという「裏表の使い分け」の姿勢を取る、これは感心しません。そうした姿勢は、内外から不信感を買うこととなり、まわりまわって政権を脆弱化させるからです。
それではどうしたら良いのか。2点提言したいと思います。
1つは、帰国後に岸田裕子氏は正式な記者会見に臨んで、訪米の成果について国民に直接語りかけることです。このプロセスを省略したのでは、準公人による正式な外交活動とは言えないと思います。その際には、各メディアは芸能人の会見のように、形式的な質問に終始したりすることなく、政治部の記者などがしっかり国民の知りたいことを尋ね、本人もこれに丁寧に答えることが必要です。
2つ目は、その会見において、今回の訪米の主目的と思われる広島サミットにおける配偶者外交の構想について、ジル・バイデン夫人とどのような打ち合わせがされたのかを、キチンと説明するということです。洞爺湖の失敗を繰り返してはいけないということもありますが、例えばウクライナのゼレンスカ大統領夫人を交えた(リモート参加の可能性も含めての)イベントなど、政治的に大きな意味を持つ計画があるのかもしれません。
また、化石燃料への依存を止められない日本が、議長国として環境論議について責任を果たすため、配偶者外交の部分で強めに環境問題を打ち出すというシナリオも検討されているかもしれません。いずれにしても、G7へ向けて、ジル・バイデン夫人と事前にどのような調整がされたのか、世論に対して説明しておくことが必要と思われます。
この2つを岸田裕子氏が帰国後に行い、自国の世論との円滑なコミュニケーションという手続きを踏むことは大切です。その上でG7にも、そこでの配偶者外交にも成功できれば、以降の首脳外交、配偶者外交への良い事例とすることができると思います。
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