コラム

バカバカし過ぎて正気を疑うトランプの選挙キャンペーン

2022年11月24日(木)16時00分

実際に11月15日に出馬宣言をした直後には「出馬にあたって支持者へのパーソナルなビデオメッセージ」があるというレターが送られました。そのビデオメッセージは、「献金をした人だけ閲覧可」と表示されていましたが、実際はリンクを押すと献金しないでも動画は閲覧できるという「不思議な仕様」になっていました。

不思議な献金メールということでは、従来からトランプ支持者には「あなたはゴールド会員になりました」というフィッシングのようなメールが来ていました。どういうことかと思って内容を見ると、そのメールを受信した人は「ゴールド会員特典」があるというのです。特典というのは何かというと、献金額が「倍になる」というのです。

どういうことかというと、このメールを受け取った「ゴールド会員」は、例えば100ドル払うと、倍の200ドルを払ったことになり、献金者表彰リストには200ドルの献金として表示される「名誉」が与えられるというのです。

驚いたのは、今回の大統領選出馬にあたっては、今度は「1300%キャンペーン」というメールが飛び交ったのです。これも同じことで、「出馬を記念して、今なら献金額に13倍のボーナスが付く」というのです。つまり、100ドル献金すると、それが1400ドルに化けて、1400ドル献金したとして表彰されるというのです。

常識を超えた世界観

バカバカしくて頭がクラクラしますが、何度も同じようなメールが発信されているということは、全く効果がないわけではなく、この種のキャンペーンに反応する有権者はゼロではないと考えられます。多くの支持者は冗談と受け止めつつ、ゲーム感覚で参加しているのでしょうが、もしかしたら素朴に「今ならお得」だと思って払う人もいるのかもしれません。だとしたら、とにかく頭がクラクラするような話です。

もう少し「マシ」なキャンペーンとして、献金するとグッズがもらえるというのもあり、今だと一口35ドル払うと、トランプの顔写真を一杯印刷した「ギフト用の包装紙」が一巻き貰えるのだそうです。そのメールは、発信者が息子のジュニアになっており、「オヤジの顔がたくさんプリントされた包装紙」を必死になって売っていました。

とにかく、メーリングリストに対しては、メッセージらしいものとしては民主党への罵詈雑言だけで政策論はなし。その上で、これでもか、これでもかと献金を募って来るわけです。献金を必死に募るということでは、民主党側も同じであり、現在でも時にはオバマやヒラリーの名義で、あるいはバイデン大統領の名義での献金要請メールは飛び交っています。

ですが、そんな中でトランプの「1300%キャンペーン」というのは、やはりユニークです。本当にお人好しの人を騙すためにやっているのか、それともこの種の「漫談」に付き合うのがトランプ派のカルチャーなのかは分かりません。ですが、常識のある人には、どう考えても理解の難しい世界であることは間違いありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story