コラム

ウクライナ戦争への姿勢は「ブレない」米世論

2022年03月16日(水)14時15分

世論の流れは共和党の「トランプ離れ」に発展するかも Evelyn Hockstein-REUTERS

<戦争への関心は強いが米軍の直接関与には反対、その姿勢では民主党、共和党の支持者間で大きな差はない>

ウクライナ戦争が勃発して2週間が経過しました。この間、アメリカでは、同じ自由陣営ということからウクライナへの共感が高まっており、反対にロシアのイメージは最悪になっています。まずこの点については「ブレ」がありません。その一方で、NATOが戦争に巻き込まれるのを警戒し、ウクライナへの支援は「間接的に」行うというバイデン政権の姿勢は支持されています。こちらも「ブレ」はありません。

こうしたアメリカ世論の現状は、複数の世論調査の結果が示しています。

まず、「ニューヨーク・タイムス(電子版)」が3月12日に配信した記事『アメリカの有権者は、今や、ウクライナをフランス、ドイツ、日本と同等の好感度で見ている』というネイト・コーン氏の記事では、オンライン世論調査機関の「ユーガブ」が継続的に調査している「国別の好感度」調査の最新の結果が紹介されています。

この調査では、英語圏の「カナダ、英国、豪州」の3カ国が「好感度プラス80ポイント」のグループを形成し、その次に言語は異なるが価値観が共通な「日本、フランス、ドイツ」が「プラス75ポイント」のグループになっています。ウクライナは1991年の独立以降、プラス20から40だったのが一気に「プラス75」になっています。反対にロシアは「マイナス60」で安定していたのが、北朝鮮以下の「マイナス85」にまで落ちています。

消えた「トランプ流」ロシア観

興味深いのは、このウクライナの好感度アップ、ロシアの急降下について、民主・共和両党の支持者の間で差がないということです。戦争の以前は、ウクライナに関しては民主党支持者の好感度が共和党支持者より高く、ロシアの好感度についてはマイナスであったものの、共和党支持者の方が高かったのです。ところが、開戦後は、両者に差が全くなくなっています。この左右の「ブレのなさ」というのは特筆に値すると思います。

特に重要なのは、共和党支持者の態度です。「俺はプーチンと取引できる」「シリアはプーチンに任せた」「プーチンは天才だ」などと言っていたトランプ流の「斜に構えた」ロシア観、あるいは「ウクライナはバイデン一家と癒着していて腐敗している」などという党派的な態度は、ほとんど消えたと見ていいでしょう。この勢いは、もしかすると共和党の「トランプ離れ」に発展するかもしれません。

もう1つ、ロイター通信社と調査機関のイプソスによる連合世論調査では、開戦の直前直後の「2月23日から24日」のタイミングと、開戦から1週間を経た「2月28日から3月1日」のタイミングで、ウクライナ戦争を中心とした同様の調査を行なっています。つまり、1週間の経過を踏まえた世論の動きを追っているのです。

ここで注目されるのは、開戦と戦況の推移を踏まえて、アメリカがウクライナ戦争に対する姿勢について、項目別に問いかけた部分です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦

ビジネス

テスラ世界販売、第1四半期13%減 マスク氏への反

ワールド

中国共産党政治局員2人の担務交換、「異例」と専門家
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story