コラム

オミクロン株の脅威、判断に迷い続けるアメリカ

2022年01月05日(水)13時00分

こうした緊張があるのは、実は米北東部が中心で、南部(フロリダを除く)や中西部の保守州では、本稿の時点ではオミクロンの感染は広まっていないようで、緊張感は低いのが現状です。ですが、保守派の間には「ロックダウンは全面拒否、マスクやワクチンの強制も断固拒否」という声が多く、「俺様の作ったワクチンだから打ってくれ」と説得して回るドナルド・トランプにはブーイングが飛ぶ始末です。こうした各州にオミクロンが広まるのは時間の問題だと思われます。

混乱の原因は、オミクロンの脅威の評価です。

1)感染力は過去の変異株より強い。
2)だが、症状は軽く、肺炎になる率は低い。
3)その一方で、ワクチン未接種者、ブースター未接種者には重症化も見られる。

という「ウイルスの特性」についての漠然とした理解は共有されています。更に、これに加えて、

4)再び経済活動への制約をかけるのは、政治的に難しい。
5)ワクチンの接種率を上げるのも、思想の問題になっているので難しい。

という「人間の側の」条件も加わっています。

オミクロン「封じ込め」を諦めた現状

ですが、実際の対応としては、業種、地域によってバラバラの動きとなっています。全体としては、オミクロンの封じ込めはほとんど諦めた格好であり、連邦政府も各州政府(リベラル州)も「とにかくワクチンを、ブースターを打ってほしい」というメッセージ発信を繰り返すばかりとなっています。

結論から言えば、現在のアメリカは「オミクロンの脅威」がどの程度なのか、「迷い」の渦中にあります。具体的には「感染力が強い」というマイナス要因と、「症状は軽い(らしい)」というプラス要因を比較しながらも、社会的な合意を作るにはデータも足りないし、そもそも各グループのスタンスがバラバラ、という状況です。

従って、アメリカは感染拡大の先行事例ではあるものの、日本が対応を判断するための十分なデータや、考え方のオプションを示せる状況ではありません。状況に翻弄されて混迷を深めているという点では、欧州も同じです。日本の場合は、まだ時間を稼げている中で、経済を殺さずに感染対策をして被害を最小限に抑え込む、そのような最適解を発見する可能性は残されているのだと思います。少なくとも、アメリカの現状を反面教師として、冷静かつ多角的に考察するべきだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story