コラム

実現遠のくトランプ弾劾、「トランプ票」を敵に回したくない共和党議員たち

2021年01月28日(木)19時45分

共和党としては現時点では「腰砕け」という格好です。トランプの行動が「反乱の扇動」であったかという判断から逃げて、とりあえず民主党を勢い付かせる弾劾を阻止すれば、トランプ票からは憎まれないだろうという姑息な計算がそこには見え隠れします。

いや、見え隠れなどというものではありません。今回の決議を主導したランド・ポール議員や、マルコ・ルビオ議員などは2022年改選組ですから、もう1年と9カ月で改選を迎えます。その際に、議員の座を守るにはトランプ票を敵に回すことは出来ない、そんな思い詰めた姿勢が感じられます。

反対に、2024年の改選組、2026年の改選組はそこまで深刻ではないにしても、2年ごとに全員改選となる下院議員選挙も、やはり1年9カ月先に迫っているなかでは、共和党としてトランプ票を抱え込まなくては勝てないという悲壮感は全体に広がっているようです。もちろん、トランプを弾劾できれば政治的に葬ることはできますが、それでもトランプ派の有権者に怨念を残せば「しっぺ返し」を食らうかもしれない、そんな感覚です。

では、これでトランプは政治的に延命し、それこそ独自のテレビ局などを設立して言いたい放題を続けて、2022年の中間選挙では闇将軍として暗躍するのかというと、まだまだ分かりません。

共和党の「違憲」主張がブーメランに?

今回の弾劾裁判にしても、現在進行中のFBIなどによる、議事堂乱入事件の取り調べなどで「新たな証拠」が出ないとも限りません。また、民主党が上院をコントロールしていることで、民主党主導による証人の宣誓証言なども可能性があります。そうなると爆弾証言が飛び出すとか、ついでにトランプの脱税や権力の濫用などさまざまな容疑についての証言も取れるかもしれません。

そんな中で、共和党の穏健派の上院議員の中には、中道票の離反が怖くなって弾劾に前向きになる部分も出てくる可能性がないとは言えません。

仮に2月の時点でトランプ弾劾不成立となったとしても、各州の検察はトランプとその周辺に関する様々な罪状に関する捜査を開始すると思います。その場合に、今回、共和党が強く主張した「退任した大統領はタダの人だから弾劾裁判で裁くのは違憲」というロジックが、「タダの人なら違法行為は全て罰せられるべき」という論理となってブーメラン化するかもしれないのです。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、10―25年の国債買い入れ初減額 「買入比率

ビジネス

ハチソンの港湾売却計画、親中紙が再考促す全面記事 

ワールド

ロシア、2夜連続でハリコフ攻撃 1週間で無人機10

ビジネス

アングル:「トリプルパンチ」の日米株、下値メド読め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story