コラム

米大統領選、開票作業は遅れているが「混乱」はしていない

2020年11月06日(金)19時45分

ネバダ州の開票所で続く開票作業 Steve Marcus-REUTERS

<激戦州で開票に時間がかかっていること、州ごとに開票のルールがバラバラなことで疑念を持たれているが>

投開票日の11月3日(火)から既に2日が過ぎていますが、激戦州では依然として接戦が続いています。中でもペンシルベニア州、ジョージア州では、小出しにされる追加の開票結果を受けて、両陣営とその支持者たちは一喜一憂しています。全米で、選挙疲れとか選挙のための「やけ食い」「ドカ食い」現象が起きている、そんな報道もあります。

そんな光景に対して、アメリカの選挙における開票は「混乱」しているとか、不正が横行している、あるいは「国連の監視団が必要」などという声まで聞かれます。特に日本では、この種の事務作業を几帳面にやるのが極端に好きな文化があるので、そうした声が聞かれるのは分からないではありません。

ですが、今回このように開票に時間を要していること、州ごとに開票の様子がバラバラなのには理由があります。

記録的に高い投票率

(1)まず、アメリカには国家レベルの、つまり連邦として統一された「公職選挙法」はありません。大統領は連邦の特別職ですが、大統領選そのものは、各州が誰を大統領に推すかを決める「州の意思決定」であり、各州が独自のルールに基づいて行っています。そこに統一性がないからといって、混乱しているわけではありません。

(2)確かに開票のスケジュールが遅延するなど、計画が狂っている州は多いです。ですが、それはあくまで、平均すると55%を超えることのないはずの投票率が、今回は67%に迫るような記録的な高率となったためです。例えば、フロリダ州など期日前投票を早めに締切り、また郵送投票は配達時にドンドン集計していた州では、投票締切の数時間後に確定投票を出すと意気込んでいましたが、できませんでした。これも、あまりに高い投票率に、数への対応でアップアップしていたためです。それ以上でも、以下でもありません。

(3)保守系のFOXニュースなどは、選挙の監視を要求した市民が拒否されたとか、その監視団は不正を発見したなどと報道しています。ですが、基本的にどの開票所でも「トランプ陣営代表」「共和党代表」「バイデン陣営代表」「民主党代表」「地方行政の代表」の5者による監視の体制が機能しているはずです。監視システムが機能しないなかで開票が進むことはないと思われます。

(4)こんなに遅れているのに夕方5時になると帰宅する開票担当者が多いという報道もあります。確かにそうかもしれませんが、州によっては現場の開票作業はボランティアに頼っています。その多くは家庭人であり、投開票日には深夜まで作業したかもしれませんが、時間外の作業が連日となると対応はできません。各州では、疲労により作業ミスが起きることを恐れて、そのために2日目以降は無理をしないというマネジメントがされているという報道もあり、アメリカではこれは当然のこととして受け止められています。

ということで、確かに世界が息をひそめて見守っているなかで、かなり時間がかかっているのは事実です。ですが、各開票所の現場は決して混乱しているわけではないし、集計の精度が落ちているわけでもないと考えていいと思います。あと少し、忍耐を持って見守りたいところです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 10
    バカげた閣僚人事にも「トランプの賢さ」が見える...…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story