コラム

日本の「ハンコ追放」が掛け声だけではダメな理由

2020年09月24日(木)15時00分

2つ目は、法律を改正してペーパーレスに対応するということです。紙を偽造したらダメという法律は、電子情報には適用できないので「電磁記録等」がどうのこうのという法律を作らないと規制ができない一方で、法律の整備には時間がかかるなど、日本の法体系は技術革新を後追いする格好でここまで来ました。

ペーパーレスや印鑑の省略を強力に推進するのであれば、現実に即した法改正が必要です。基本的にシステムは運用の使い勝手がいいようにして、自動的なエラーチェックで虚偽情報などは「はじく」のがスマートですが、同時に厳罰主義によって悪用を抑止することも必要だからです。

また、民間におけるペーパーレスや印鑑の省略の結果として起きる不正行為の可能性についても、民事法廷の使い勝手を良くして原状回復がしやすくするだけでなく、詐欺罪のような刑事罰を加えることで不正を抑止することも必要と思います。

電子契約の印紙税をどうする?

3つ目は税制です。現在の税制では、「課税文書による契約の場合は該当する契約書には印紙を貼って捺印する」形で、印紙税が課税されます。その一方で、電子契約の場合には、そこに課税する法律はありません。ですから電子契約にすれば無税になるわけですが、現状では税理士などが「税務調査で指摘されるとマズい」などの理由で、紙の契約を作らせて印紙に捺印をさせています。

国税庁は、今後、電子契約を推進するとして、その場合は「印紙税を発展させた別の電子課税の方法を設ける」のか、それとも「電子契約とともに印紙税はやめる」のかをハッキリしないといけません。曖昧なままですと、いつまでも「国税が怖いので念のため紙の契約にして印紙貼ってハンコ」という慣行を断ち切ることはできません。

いずれにしても、ハンコ追放とペーパーレスは、喫緊の課題です。成功すれば、官民ともに生産性の向上が期待できます。ですが、同時に各省庁が一斉に取り組んでいかねば効率が上がりません。ですから、まさに「縦割り行政を打破」しなくては進みません。

河野大臣には、徹底的に改革を進めてもらいたいと思います。また、菅首相には、改革ができるだけの権限を河野大臣に与え、守旧派の攻撃から守る姿勢を貫く必要があります。

<関連記事:「デジタルファースト」で岐路に立つ日本の「はんこ文化」
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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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