コラム

【2020米大統領選】「隠れトランプ」の行方、「隠れバイデン」の可能性

2020年09月10日(木)16時50分

トランプ政権のコロナ対策での失態などから「バイデン優勢」と見られてはいるが…… Kevin Lamarque-REUTERS

<BLM運動と右派の暴力的な衝突から、トランプ政権支持を知られたくない「隠れトランプ」は一定程度いると見られているが>

前回2016年の大統領選では、アメリカ全体として、圧倒的多数のメディアや世論調査が予想を外したわけですが、その説明の1つとして「隠れトランプ」という現象が指摘されていました。つまり、世論調査の電話に対しては恥ずかしいので「トランプ支持」とは言えなかったとか、まして家族や同僚には絶対に言えないけれども、投票所における最後の瞬間にコッソリとトランプに入れた人が6~7%いたというのです。

確かにペンシルベニアでテック系企業に勤めていた私の友人は、投開票の翌朝になって「実はトランプに入れた」という同僚が多数いたので唖然としたということを語っていました。つまり、2016年の選挙の直前までは「トランプに入れる」ということは、「人に隠れてコッソリ」やることだという感覚があったのです。では、翌朝になってどうして私の友人が知ることができたのかというと、当選して社会的な「お墨付き」がついたので、堂々と名乗り出たというわけです。

今回、2020年の選挙の行方を占う上で、この「堂々と名乗り出た」ということには意味があると思います。つまり、当選とともに、トランプへの支持というのは、少なくとも「社会通念に反した異常な趣味」ではなくなったと考えられます。

以前として存在する「隠れトランプ」

トランプの時代となって、社会の分断が進みましたが、それに伴って、トランプを支持する人々は堂々とその主張を行うようになりました。また、家族に隠れてトランプに入れた人も、さすがにこの4年間にわたってトランプ支持ということを「秘密」にしてはいないと思います。堂々と明かして、その結果として離婚となったケースもあるでしょうが、少なくとも「胸に秘め続ける」という例は少ないはずです。

一方で、依然として2020年の選挙情勢においても「隠れトランプ」の存在に留意する必要があるという意見もあります。中道系の政治紙『ザ・ヒル』に掲載されたJ.T.ヤング氏のコラムによれば、現在のトランプ支持者は「人種差別反対デモに対する暴力的な攻撃」を支持するなかで、自分の立場を隠す傾向にあり、例えば世論調査の電話などではトランプへの支持を正直には言わないと言うのです。ヤング氏は、そうした「隠れトランプ」は、バイデン支持という数字の3~5%は計算しておくべきだとしています。

<関連記事:戦没者を侮辱するトランプ、その発想をどう理解すれば良いのか?
<関連記事:トランプ支持の強力なパワーの源は、白人を頂点とする米社会の「カースト制度」

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story