コラム

超法規の政府職員を動員してデモ制圧に乗り出したトランプ

2020年07月21日(火)16時40分

この行動に対して、オレゴン州のブラウン知事、ポートランドのウィーラー市長、そしてポートランド市警などは一斉に激怒しています。というのは、国土安全保障省がこのような形で、実力行使をするとか、捜査権を使ったり逮捕拘禁を執行したりという法律はないからです。つまり超法規的な私兵として、謎の迷彩服集団を投入してデモ隊に暴力を加えているということになります。

連邦議会でもこの超法規的な暴力集団については問題になっているのですが、調子に乗った大統領は、「民主党の地方政治が治安を悪化させている都市には順次投入する」と息巻いており、とりあえずシカゴ、ニューヨーク、フィラデルフィアなどに活動範囲を拡大すると言っています。

左右対立を煽って一緒に「敵」を叩くことで、支持者を喜ばせ、投票所に行かせるという行動を続け、政治的勢いをキープするのは大統領にとって常套手段です。そんなトランプ大統領としては、この「迷彩服集団」によってデモ隊を挑発し、暴力行為に駆り立てながら徹底的に叩くという図式を作りたいようです。

ですが、最悪の場合は地元警察が武装してデモ隊を守る構図も予想され、かえって自分の首を絞める危険もあります。何しろ根拠法のない暴力行為というわけですから、落選して退任した後には刑事責任を問われる可能性も十分にあるのです。

一連の「マスク着用拒否戦術」が、あまりに深刻な南部・中西部の感染拡大のために崩れた今、このような乱暴な手段でしか「対立を煽る」という「いつもの手段」を形にできない、大統領はそんなところまで追い詰められているのかもしれません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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