コラム

動き始めた「ポスト安倍」に求められる3つの最低条件

2020年06月19日(金)16時00分

外交に関してはどうでしょうか? トランプという異常な政権を抱えたアメリカ、コロナ危機に直面しつつ経済の大リストラを遂行している中国という、平常時ではない大国との対応において、安倍政権は選択可能なゾーン内での外交を淡々と行っています。これを受け継ぐのか変更するのかは、大切なポイントです。

特にトランプについては、当選直後から安倍首相が個人的な人間関係を構築して、「被害を最小限にとどめる」対策を講じてきたのが、ある程度効果を発揮していると思います。そんななかで、仮にポスト安倍の政治家が、仮に今年の早い時期に政権を継ぐとか、あるいはトランプ政権がさらに4年続くという場合には、どうしてもトランプという面倒な相手と外交上向き合う必要が出てきます。

その場合、この安倍首相の手法を継承するかどうかという問題が出てきます。安倍首相の場合は、決して優等生キャラでもないし、かといって豪快なキャラでもありません。そこが、トランプとの対決でも有利に働いたし、またトランプと協調している姿も、それほど見苦しいイメージにはなりませんでした。

80年代日米貿易摩擦の怨念

では、ポスト安倍の政治家はトランプという要注意の政治家との外交において、安倍首相のような芸当ができるのかというと難しいと思います。これに加えて、日本の世論の中には「何度もゴルフをするような卑屈なことはせず、トランプに対しては是々非々で対抗してもらいたい」という感情があるのは間違いありません。

ですが、仮にそうした是々非々の姿勢にハッキリとシフトする場合は、EUやカナダ、豪州、ASEANなどと協調して行うべきです。そうした手間を惜しんで、日本だけでトランプに敵対するのはリスクが大きいと思います。向こうは「80年代の日米貿易摩擦の怨念」という「高齢有権者の時間差を伴った負の感情」を抱えているので、下手をすると手のつけられないトラブルになる可能性があるからです。

非常に単純化すれば、コロナ危機に対して安倍政権以上の透明性確保とコミュニケーションの体制が組めること、コロナ不況対策と産業構造改革についてのスタンスを明確にすること、混乱する世界において、例えばトランプという異常な外交の相手に対して国益を守る外交ができること、この3つは、ポスト安倍の最低条件ではないかと考えます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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