コラム

日本がコロナ死亡者を過小申告している可能性はあるのか?

2020年04月21日(火)17時30分

そこで問題になるのは、この死者数に「隠された数字」があるのかどうかという点です。この点については、私のメルマガ「プリンストン通信」で、医療関係の読者の方と多角的に検討しているところなのですが、次のようなことは言えると思います。

まず、状況として「死者数を抑える動機」は指摘できると思います。3月までの状況では、2020年に東京五輪を開催するにあたって死者数を低く見せたい、政府や東京都は否定していますが、これは強い動機としてあったに違いはありません。

また、世間からの差別を恐れて、あるいは臨終や葬儀を通常通りに行いたいということから、家族も、医療機関も、また葬儀社や火葬場にも、「感染の可能性はゼロではない」場合に、「あえて感染を確認したくない」という動機があったと考えることは可能です。

そうではあるのですが、「死を隠す」というのは、非常に難しいように思います。例えばアメリカの場合、ニューヨーク市では保険がないなどの理由で、救急車が呼べずに死亡してから通報するという「在宅死」が多く見つかっており、その数が4000件を超えています。この場合は、死亡してから通報があり、救急隊が行って死亡確認と遺体の処理になるわけですが、そこで陽性者でないということで感染防止の対応が十分でなく、警察や消防における感染拡大の一因となっているという説があります。

大幅な過小評価の可能性は低い

私の住むニュージャージーの場合は、老人福祉施設での「大量死」に施設が対応できずに、例えばある施設の遺体安置所に17体の遺体が収容されたまま、通報がされていなかったとして、知事が激怒するというケースもありました。悲惨なケースですが、とにかく大量に人が亡くなった場合に、それを隠蔽するというのは非常に難しいのです。

日本の場合ですが、仮に「コロナ死」が「肺炎など」の死亡数に「まとめられて」しまっていたとしたら、そこでの異常値が出てくるはずです。その一方で、ニューヨークの「在宅死」のような杜撰な対応は日本の場合にはあり得ず、仮に感染の疑いのある亡くなり方をした方が出た場合は、医療機関も、救急、葬儀社、火葬場などはきちんとした感染防止対策はすると思います。

もちろん、各地方自治体の統計を待って、死者数の異常値がないかを調べないと最終的なことは言えないと思います。ですが、10万人あたりの死者数が0.19という現在の数字が、大幅に過小評価されたものだという可能性は少ないように思います。仮に何か強い動機があって、現場も含んで「できるだけカウントしない努力」がされていたとして、2~3倍ということはあっても、10倍ということはないのではないかと思われます。

その意味で、証拠もなく「グレーゾーン遺体の存在」などと取り沙汰されるのは困ったことだと思います。その一方で、現時点では政府も専門家委員会も、あるいは各都道府県も、いたずらにこの数字を誇ることなく、危機感を維持しているのは大切なことと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 6
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story