コラム

アメリカの新型コロナ死亡者数を急増させた「在宅死」の背景

2020年04月16日(木)16時30分

表面化した「在宅死」の背景には貧困や不法移民の問題がある Brendan McDermid-REUTERS

<コロナ診療が無償化されているのを知らなかったり、不法移民が強制送還を恐れて病院に行かなかったりする実態が......>

4月の第2週ぐらいから、ニューヨークではコロナ死亡者数の「カウントが少なすぎる」という指摘がされていました。根拠としては、地方公共団体が毎日発表している毎日の死亡者数情報とは別に、検視官事務所が把握している「在宅死」が異常値になっていたというのです。

つまり、自宅で容体が急変したので救急車を呼んだが、間に合わずに自宅での死亡が確認されたとか、明らかに亡くなっているので、救急車ではなく警察を呼んだというケースが多くなっていたのです。4月10日頃の報道では、概算では一日平均で200人ぐらいが「前年より多く」なっていたと伝えられています。

これに対して、行政の対応は比較的迅速でした。ニューヨーク市警は調査に動き、14日になって、ニューヨークのデブラシオ市長は、「みなしコロナ死亡」の存在を認めました。また、トランプ政権の連邦政府でも、CDC(米疾病予防管理センター)が14日の時点で基準を改訂して、PCR検査による陽性が確定しないまま死亡した患者で、所定の条件を満たしたケースは「コロナ関連死」としてカウントするとしたのです。

その修正ですが、なんと「3778人」という信じられない数でした。1日あたり200人増という「異常な在宅死」を累積すると、そのような数字になっていたのです。その結果として、この時点でのニューヨーク州の累積での死者数は1万4612人という大変な数字に上っていいたのです。そして、15日にはこれに新たに752人が加えられました。

警察、消防への感染拡大

この「在宅死」については、ニューヨーク市内でも、発生がブルックリン区、クイーンズ区に集中していることから、コロナ診療が無料化されていることを知らず「自分は無保険なので医者に行くカネがない」と思い込んだり、特にクイーンズ区の一部などでは「自分は不法移民なので病院に行ったら強制送還される」と考えて、自宅で我慢しているうちに容態が悪化して亡くなるというケースが多かったのではないか、という可能性が指摘されています。

この「在宅死」は別の問題にも関連しています。患者が「新型コロナ陽性」だと分かっていたのであれば、救急や警察などが対応する際には、感染防御の体制を整えて対処するはずです。ですが、仮に「コロナ以外」という理解で、対策を取らずに「在宅死」の対応をしていたとすれば、そこからの感染の拡大が心配になるからです。ニューヨーク市警、消防、救急に多くの感染者、そして死者が出ているのが問題になっていますが、このような実態が一因としてあるのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story