コラム

東京五輪の中高生ボランティア、問題は「動員」よりも「引率」

2019年11月14日(木)17時40分

中高生の場合、ボランティア経験をさせる教育的な効果は2つあります。1つは、「善意による無償の行為」が社会の一部を支えているということを経験として学ばせることです。善意を与える側も、受け取る側も胸を張って行動することを体験して、社会性の一端を学ぶということです。もう1つは、大人の実社会を経験することで、実践的な知識を得たり、進路へと結びつくような深い経験をすることです。

問題は後者です。ボランティアを深い経験とするには、社会人の組織の指揮命令下に入って、コミュニケーションの経験を積み、組織の動きを知り、その中で自分がどう感じるのか、その上でどう判断して動けるのかを自ら問い、経験を深めなければならないでしょう。

その場合に、小学生ならともかく中高生に関して、自校の引率教員が入るというのは致命的です。また学校単位で行動して、同じ職場に見知った生徒がいるというのもマイナスです。せっかくの一生に一度のオリピックでのボランティア経験という機会に、日常性が入り込んで来るからです。組織と自分がダイレクトに関わることが薄まって、深い経験にはならないからです。

教育官僚の発想からは、教育の一環だから教師が引率するのだという発想になるのかもしれませんが、それは違うと思います。本当に人格の陶冶(とうや)、社会で通用するコミュニケーション力、そして進路に結びつくような深い経験をさせるのであれば、中高生は個人として大人の組織の中に放り込むべきなのです。

そんなわけで、「各学校に一律5人の割り振り」というのも問題かもしれませんが、それ以上に「各学校1人の教員の引率」というのは致命的と思います。そんな子供扱いの「浅い」ボランティア経験であれば、欧米や中国などの名門大学のAO入試向けの履歴書には胸を張って書けないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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