コラム

参院選、比例「特定枠」の曖昧さと地域間格差

2019年07月23日(火)18時20分

この「鳥取・島根」選挙区ですが、次回の参院選は島根出身者が選挙区に出て、鳥取の候補は「特定枠」に回る、そんな運用を前提とした制度なのです。では、どうして「選挙運動が禁止」なのかというと、「運動したのに得票数が少ない」と不信任を受けた印象になるので、そもそも運動を禁止しておくという発想のようです。その結果、有権者から見れば信任を得たかどうか不明な政治家が、任期6年の参議院議員として当選することになりました。

またせっかく一票の格差を是正するために「定数是正」を行なったのに、人口減少県の代表数は事実上確保されてしまっているという問題もあります。この点も批判されてしかるべきでしょう。

一方で、この「特定枠」を別の意味で活用したのが「れいわ新選組」です。特定枠に重度の障がい者の候補を立てて、党首の山本太郎氏の集票力を使って2人を当選させたのです。つまり「選挙運動ができない」制度を逆手に取って、「障がいのために選挙運動が難しい」候補を当選させるのに使ったというわけです。発想としては興味深いですが、れいわの「作戦」も参院の選挙制度安定化への真摯な姿勢とは少し違うように感じられます。

この「特定枠」を生み出した「定数是正」ですが、昨年2018年7月に成立した「6増案」が今回から適用されるものです。自民党が「鳥取・島根」と「徳島・高知」の2つの合区で使うために、比例代表を4議席増(一回の選挙では2増)としたのに加えて、埼玉選挙区を2議席増(一回の改選では1増)としたものです。

問題は、この埼玉(定数8議席、改選4議席)とか東京(定数12議席、改選6議席)あるいは大阪(定数8議席、改選4議席)といった大選挙区があるという点です。

例えばですが、「1人区」と「6人区」では、同じ一票であっても選択の機会が全く違うわけです。1人区の場合は、自民系か旧民主・民進系の選択になることが多いわけです。特に今回の場合は、「野党共闘」候補も多かったので、そうなると一部の有権者としてはまさに消去法の選択を強いられるわけです。

一方で大都市の場合は「選択の幅」がそれこそ「自民、公明、旧民主・民進系、維新系、共産」というバラエティに富んでいて、有権者は投票行動に際して、より自分の観点に近い選択をすることが可能になります。この地域格差というのは、それ自体が不安定なものを抱えているように思います。

いずれにしても、参院については現在の選挙制度が最終的な確定形であるとは、とても考えられません。それにもかかわらず、解散のない参院では当選した議員には6年の任期が与えられるわけです。あらためて選挙制度に関する真剣な議論が必要と思います。

一つの考え方としては、衆院を小選挙区制にした一方で、参院は全国を30くらいの中選挙区にして、いずれも定数は4にする中で選択の幅を確保するということが考えられます。あるいはその延長上に人口減少に直面した都道府県の「合県」ではなく「道州制」を考えていくとか、いずれにしても抜本的な議論が必要ではないでしょうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story