コラム

トランプ弾劾が絡んで風雲急を告げる米中間選挙

2018年09月06日(木)19時00分

最近になってトランプは自ら「弾劾」という言葉を口にし始めた Kevin Lamarque-REUTERS

<中間選挙を目前に控えて、下院で民主党が巻き返す見通しになるなど情勢は大きく変化している>

11月のアメリカ中間選挙までちょうど1カ月となり、選挙戦はいよいよ本格化してきました。まず大枠で見ると、半年前の春の4月ごろと比較しますと情勢が一変していると言えます。大きな変化としては2つあります。1つは大統領側近の有罪などを契機として「弾劾(Impeachment)」という言葉が、明確に語られるようになったことです。

大統領自身までも再三にわたって「自分が弾劾されたら......」などと口にするようになり、この言葉へのタブー感は消えました。民主党の候補の多くは、公約に「大統領弾劾」を掲げるようになっています。

2つ目は選挙情勢です。春先には「共和党が絶対多数の下院をひっくり返すのは不可能」で、「問題は民主党が上院の過半数を奪い返すか」だと言われていました。ですが、現在の情勢は全く違っています。下院では、多くの選挙区で民主党が議席を奪う構えとなっている一方で、主戦場は再び上院になっているのです。

多くの世論調査データを集計している有名な政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」によれば、現時点での世論調査集計に基づく情勢分析としては、
▼上院......民主44、共和47、拮抗9(非改選含む、過半数は51)
▼下院......民主201、共和191、拮抗43(過半数218)
となっています。

下院では、司法委員会の議決を経たのちに、単純過半数すなわち218票で「弾劾発議」つまり、大統領を罷免する弾劾裁判の起訴ができてしまうわけで、これは深刻な事態です。

そんな中で、先週アリゾナとワシントンで行われた一連のジョン・マケイン議員の葬儀では、トランプ大統領の「不在」が目立ちました。ペンス副大統領、マティス国防長官、ケリー首席補佐官などが列席して存在感を見せる一方で、「招待されていない」こともあって葬儀の時間にゴルフをしていた大統領は、これで明らかに中央政界における、そして全米においても「存在感のなさ」を印象付けたように思われます。支持率も、ここへ来て40%ギリギリのところまで急落しています。

一方で、9月11日に発売予定とされるボブ・ウッドワード著のドキュメント『恐怖(FEAR)』が大変な話題になっています。ウッドワードといえば、1973~74年の「ウォーターゲート事件」の際に、相棒のカール・バーンスタイン記者と一緒に「ディープスロート」という情報提供者を得て、ニクソンを追い詰めた伝説のジャーナリストです。

その後も、ブッシュ政権の内幕暴露本でも政界に激震を走らせた実績もある人物です。そのウッドワードの今回の本は、ホワイトハウスの周辺に徹底取材を仕掛けて、その膨大な内容から「ホワイトハウスの混乱」を暴き出しているそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story