コラム

移民親子引き離し政策、トランプが引き起こした米国内の人道危機

2018年06月19日(火)17時40分

テキサス州内の専用施設に収容された、保護者と引き離された子供たち ACF/HHS/REUTERS

<不法移民摘発の「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ)」政策によってメキシコ国境で親子が引き離される事態が多発――メラニア夫人からも非難が>

メキシコ国境との間に「壁」を作ると言って当選したトランプ大統領ですが、その「壁」については議会が予算を承認しない一方で、「費用を負担させる」としたメキシコから拒否され、計画は宙に浮いた状態になっています。

その一方で、政権発足後の国内および国境地帯における「不法移民の摘発」は徐々に厳しさを増しています。特に、国境地帯では逮捕者がどんどん増えているのです。この国境地帯で「現行犯逮捕」されるケースは、多くが家族での越境です。ですから、従来は起訴される場合も家族一緒、入国が認められる場合も一緒、そして国外追放される場合も一緒という運用がされていました。

ところが、昨年10月頃から少しずつ「逮捕・起訴した親」を「子供」から隔離するということが始められました。そして、この方針はこの5月から突然に、「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ、つまり一切の例外を認めないこと)」政策として実施されることになりました。

例えばテキサス州では、閉店したウォールマートの店舗を改造した、にわか作りの「子供用の収容所」が設けられ、男女を分けて収容するということが行われています。その数は急速に増えており、数週間で2000人に達したようで、一部の推定では現在は4000人を超える子供達が親から引き離されて集団生活を強制されているようです。

現在、この問題は厳しい政治的対立を生んでおり、連日アメリカでトップニュースになっています。しかし当局(国土安全保障省)は、「政治家の視察」を頑なに拒んでおり、実態調査は十分に進んでいません。その一方で、一部の施設に関しては報道陣に公開され、狭いスペースに押し込められたベッドに多くの子供達が寝かされていたり、まるで刑務所のようにバスケットボールをさせられていたりという映像が流れています。

一番の問題は、子供たちが既に多くの収容施設に分散されている中で、親の方からは「自分の子供がどの施設にいるのか分からない」し、子供の方からも「親と連絡が取れない」という状況になっていることです。当局はポスターを作って「親から子への連絡方法」を公表しているのですが、電話をするにも子供を探すための問い合わせをしてから数日以上待たされるという状態になっており、実際には連絡が取れない場合があるというのです。

一部の現場の声としては、このまま親が強制送還になった場合、子供と離れ離れになってしまう危険もあるという指摘があります。というのは、親が送還された場合に、子供を誰かが付き添って国外に送るというシステムはないからです。そのため、幼い子供の場合は「生後10カ月」の乳児まで「引き離し」の対象になっているケースもあるそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story