コラム

スポーツ賭博解禁に揺れるアメリカ、野球界には根強い抵抗

2018年05月31日(木)18時50分

もう1つ、トランプ政権下で、ある程度右派的政策(スポーツ賭博解禁というのは規制緩和ですから立派な右派的政策です)を実現しておいて、その一方で肝心の勝負所に来たら政権に鉄槌を下すような判決を出して、最高裁の歴史的な権威を維持しようというバランス感覚ではないかという説もあります。

それはともかく、判決を受けて各州では、具体的な法律や規制の検討に入っているのですが、スポーツ界は困惑しています。まず、直接の訴訟当事者として敗訴した、全国学生スポーツ連盟(NCAA)は、特に大学のバスケットボールが心配だとしています。近年、大学のバスケットボール選手権は「マーチ・マッドネス(3月の熱狂)」と言われて、人気が過熱しています。ですから当然こうした大会は賭博の対象になるわけですが、万が一にも競技者が賭博をしたり、まして八百長疑惑などが発生したりすれば、一瞬のうちに人気が吹っ飛ぶ可能性があるからです。

プロスポーツ界も、ほとんどのスポーツが反対しました。とりわけ野球界には根強い抵抗があります。1919年に発生した「ワールドシリーズ八百長疑惑(ブラックソックス事件)」や、1989年に史上最高の打者と言われたピート・ローズが永久追放になった事件は、前者については事実関係に疑念が残り、後者については本人が後年に罪を認めて謝罪し、部分的な名誉回復もされました。

ですが、どちらも多くの野球ファンを落胆させ、競技そのものへの信頼が大きく揺らいだのは間違いありません。とにかく、そうした「痛い経験」をしているだけに、慎重の上にも慎重にというのが野球界のホンネであると言えます。

例えば、ニューヨーク州議会は、参考人に前ヤンキース監督のジョー・ジラルディを呼んで意見を聞くことになっていますが、そのジラルディは「最高裁判決が下った以上は、早く良い制度を作っていただくしかない。自分としては、議会にそうお願いするしかないが、野球人としては競技のクリーンさ(integrity)を保証する制度でなくてはダメだと思っています」と述べています。

賭博の対象スポーツの競技者が疑念を持たれて、結果的にスポーツに対する信頼や人気に影響が出ては大変です。そうした不祥事をどのように防止するのか、各州レベルではレギュレーションの詳細づくりに頭を痛めています。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story