コラム

ラスベガス乱射事件、史上最悪の犠牲にも動かない銃規制議論

2017年10月05日(木)12時20分

1つは、現在議会で審議されている「銃の消音器(サイレンサー、サプレッサー)」の販売に関する規制緩和の問題です。3月以来断続的に審議が続いているこの問題ですが、要するに銃口にセットすることで、銃撃時の爆発音を抑えることのできる部品(消音器)について、従来厳しい規制がされていたところを自由に販売できるようにしようというものです。

共和党は、今回の事件は事件として、淡々と規制緩和の成立に向けて努力するという立場ですが、これに対して民主党は激しく反発しています。つまり、今回の事件では、少なくとも「コンスタントな銃声が聞こえた」から、多くの人が異常に気づいて避難ができたのであり、その銃声を消す機械を自由に販売するなど「とんでもない」という立場です。

これに対して共和党は「消音器でも銃声は消せないから、その点は全く問題はない」と反論しており「消音器をつければ無音のうちに人が殺せるなどというのは、映画の中だけのファンタジー」「今回の自由化は、銃撃時に狙撃者の鼓膜を守るという健康面での必要から進めている」という立場を崩していません。

共和党側の主張には一理あるにしても、このような悲惨な事件が起きたという時期に、狙撃者の鼓膜を守る消音器を自由に販売できるようにするのは、判断として不自然という見方が自然だと思われます。この「消音器の自由販売」という問題は、その意味で喫緊の課題になっています。

もう一つは、今回の実行犯が高い連射性能を持った銃を使用していた問題です。記録されている銃声音でも明らかですが、実際に押収された武器を見ると、「セミオートマチック」のライフルが「フルオートマチック」に改造されており、高度な連射性能を有していたことが判明しています。

この「フルオートマチック改造」ですが、法律上のグレーゾーンになっている実態が浮き彫りになっています。と言うのは、まず改造に必要な部品がインターネット上では野放しになっており、誰でも200ドル前後で購入できるという現実があるからです。また、連邦法で禁じられているにも関わらず、事件のあったネバダ州では改造用部品の販売が横行していたのです。

この「フルオートマチック改造」という行為、そしてそのための部品の販売禁止という措置は、現在の連邦法でも可能なはずで、今回の事件を受けて取締りの強化ができるかどうかが問われています。

本来であれば、強い殺傷能力を持つアサルトライフルの規制という議論が起きてもおかしくないのですが、当面は「消音器の自由化」問題と、「フルオートマチック改造」への実効ある規制という二つの問題――どちらかと言えば些末なこの二つの問題がクローズアップされることになりそうです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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