コラム

終息に向かうIS、モスル解放の次に待つのは?

2017年07月06日(木)15時30分

しかし、クルドの独立には、まずトルコが厳しく反対し、イランもシリアのアサド政権も同じスタンスです。それぞれが、領内にクルド人の居住区を抱える中で、隣り合う「イラク領内のクルド人」の独立には、自国内のクルド系にも影響がある中で、絶対に容認できないという立場です。

加えて、ISという敵がイラク国内から消えたとして、シーア派イラクの体制はどうなるかという問題があります。今後も親米で穏健な姿勢を維持できるのか、それともサドル師などの急進派の影響力が拡大するのか、イランへの接近が強まるのか、こちらも注意が必要です。特にブッシュ、オバマ時代と比べて、イランとサウジの間の関係がはるかに悪化している現在、イラクの将来像もまた揺れていく可能性があります。

【参考記事】シリア東部はアサドとイランのものにすればいいーー米中央軍

もっと難しいのがシリアです。IS制圧というスローガンは、現時点では「アサド政権」「自由シリア軍」「クルド系」「トルコ系」といったシリアの各勢力が「唯一共通のテーマ」として取り組める問題でした。仮に、ISが本当に弱体化した場合は、残った勢力は「どうしても直接対立する」ことになります。

「ポストIS」のイラク、シリアには、次元の違う問題が残っていくことが避けられません。仮に「領土を支配しているイスラム国」としてのISが消滅しても、アルカイダと同じような地下テロ組織としては、現在でもフィリピンやアフガニスタンでの活動を強めているわけで、引き続き警戒が必要です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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