コラム

銃規制「冬の時代」に実施される、ニュージャージーの銃買い取りイベント

2017年06月29日(木)16時00分

イベントは、7月28日と29日の2日間、銃による事件の多い大都市カムデン、トレントン、ニューアークの3都市で同時に実施されます。一丁の銃に対して、買い取り金200ドルが支払われることとなっており、身分証明の提示は求められるものの、「持ち込んだ人間に一切質問はしない」ことになっており、スムーズな買い取りを目指しています。

では、どうしてニュージャージー州では「銃削減」の取り組みが可能になっているのかというと、そこには複雑な事情があります。一つは、いくら銃規制に関する世論の支持が強いとはいえ、共和党は銃規制には反対しています。特に、「買い取り」のために公費、つまり州民の税金をあてるようなことをすれば、強硬に反対するでしょう。

そこで、今回もそうですが、一連の「銃の買い取りイベント」ではイベントの実施や安全管理は州や地方自治体、警察が行うものの、「買い取り資金」はNGOが中心となり、個人や企業からの寄付を募って実施する枠組みを取っています。

【参考記事】共和党議員銃撃、「左派」支持者の凶行に衝撃

ニュージャージー州が銃規制に関する取り組みを行ううえで、州政を共和党のクリス・クリスティー知事が担っていることが障害になっていました。クリスティー知事は、2016年の大統領戦で共和党の候補になることを狙って予備選レースに出ていました。

予備選における同知事ですが、党内では「銃規制をやっている州の知事だから真正保守ではない」などという批判を受けていたのです。ですから、その批判を払拭するために必死になって銃規制の州法に「拒否権発動」をしたり、反対に議会はその「拒否権に対する再可決」を狙ったりと激しい駆け引きがありました。

ですが最近は、クリスティー知事の影響力は低下しています。大統領選予備選では早い時期に「トランプ支持」に回り、一時は司法長官を目指すなどという話もあったのですが、大統領の娘婿であるジャレット・クシュナーとの確執もあって要職には就けませんでした。州知事の方も2期8年の任期が終わり(再選出馬の権利なし)に近づいていわゆる「レームダック状態」になっており、今はトランプ政権の薬物濫用撲滅キャンペーン担当をしています。

このような経緯で「うるさい知事」がおとなしくなったということも、今回の「銃削減イベント」を進めることができた要因だとも言えるでしょう。ちなみに、ニュージャージーでは、クリスティー知事の後任を決める選挙が11月に予定されており、これは2018年の中間選挙の前哨戦として大きな意味を持つことになりそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story