コラム

イチロー選手はもう安打数で評価する領域を超えている

2017年06月01日(木)17時00分

さらに憶測を重ねるのであれば、この両者について、本人同士はどこかで和解をしているのではないかと思います。2人の野球と人生に取り組む姿勢から見て、私は個人的にそんな感触を持っています。

そんなわけで、いくらイチロー選手を応援したいからといって、「現役最高安打数」でベルトレ選手にイチロー選手が抜かれそうなのは「残念だ」というニュアンスでイチロー選手を応援するというのには、違和感を覚えずにはいられません。

イチロー選手は長く栄光に満ちた、しかし同時に苦しみも多かった現役生活の最後の段階に来ていることは否定できません。今は、マーリンズの同僚たちも、そしてマッティングレー監督も、そして、マイアミのファンたちも、ベンチにいていつでも出場できる準備を怠らないイチロー選手の野球に取り組む姿勢と存在感に、それだけで熱い畏敬の念を抱いているのです。

それで十分であり、この期に及んで「1本でも多く打って、少しでもベルトレ選手に抜かれるのを遅らせて欲しい」などと求めることは、私にはとてもできません。試合に出場しても、出場しなくても、イチロー選手の誠実で真剣な生き方そのものを、アメリカの野球ファンは深く理解しています。すでに「誰かとの比較というのは無意味な領域」にこの不世出の天才は入っているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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