コラム

イチロー選手はもう安打数で評価する領域を超えている

2017年06月01日(木)17時00分

今シーズン不調のイチロー選手はスタメンから外れる試合が続いている Jasen Vinlove-USA TODAY Sports/REUTERS

<ベルトレ選手(テキサス・レンジャーズ)の3000本安打達成が見えてきた今、イチロー選手の記録が抜かされることを心配する日本メディアもあるが、そのような比較はもう意味がない>

テキサス・レンジャーズで、ダルビッシュ有投手のチームメイトである、エイドリアン・ベルトレ選手といえば、通算445本塁打という長距離砲でありながら、ゴールデングラブ賞5回の好守を誇っています。現役選手というだけでなく、近代野球における最高の三塁手という評価がされても過言ではない名選手です。

そのベルトレ選手ですが、右足の故障で開幕以来故障者リスト(DL)に入っていたのが、5月29日に復帰しました。ベルトレ選手は、昨季までの安打数が2942で、復帰直後の3試合でもヒットを打っており、今季中の3000本安打到達は完全に視野に入ってきたと言えます。

3000本安打に加えて、450本塁打は間違いない以上、引退後の野球殿堂入りは確定していると言って良いでしょう。一方で、達成した数字の割にはまだ若く38歳です。19歳でMLBデビューし、20歳でドジャースのレギュラーになってフルで活躍しているからです。ですから、キャリア的には超ベテランですが、まだまだ数字を積み上げる可能性はあります。

そこで一部の日本のメディアでは、「イチロー選手の安打数」との比較が始まっているようです。現在のMLBを代表する野手と言って良い、この2人の選手のうち、まずイチロー選手が3000本安打に到達したわけで、その「仲間」としてベルトレ選手が到達するという形で取り上げているのであれば、まだ良いのですが、比較というのは別の意味が込められているのです。

【参考記事】佐藤琢磨選手のインディ500優勝は大変な快挙

というのは、「現役通算安打のランキング」で、イチロー選手がベルトレ選手に「抜かれてしまう」という一種の悲観報道があるのです。「イチロー、安打一位ピンチ」といった種類のものです。イチロー選手は5月31日現在、3042安打で、ベルトレ選手が2945ですから「その差は97」です。「準」レギュラーとして出場機会が限られ、また今季は決して好調ではないイチロー選手に対して、三塁のレギュラーに復帰したベルトレ選手がヒットを量産すると、「逆転は時間の問題」だというのです。

しかし、そんな心配はするべきではないと思います。

まず、イチロー選手に声援を送る際に、他でもないベルトレ選手に「通算安打数を抜かれたくない」という感情を込めるというのは、私には強烈な違和感があります。というのは、この両者には不幸な過去があるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story