コラム

シカゴ・カブス108年ぶりの優勝は、トランプ現象とは無関係

2016年11月08日(火)17時20分

 かなりラフな意訳ですが、要するに自分たちらしさ、つまり全員の総合力で勝っていこうという「激」です。いい意味のアメリカの「体育会カルチャー」であり、そこでナインは蘇ったのだと言います。

 このヘイワード選手は、ジョージア州育ちのアフリカ系アメリカ人ですが、両親は必ずしもジョージアの出身ではなく、名門ダートマス大学で出会ったという知的な家庭の出身です。ですが、ヘイワード自身はジョージアの地元に根ざして、高校時代から野球で頭角を表し、プロのキャリアはアトランタ・ブレーブスから出発しています。

 一方で、この「激」の時点で下を向いていたチャプマン投手は、キューバのナショナルチームで活躍し、2009年にアメリカに亡命して来ています。そのチャプマン投手は、9回に自分が打たれてゲームを同点にされたわけですが、このヘイワード選手の「演説」でチームが蘇り、最終的にチャンピオンになった瞬間には、ナインの中で最も喜んでいました。チャプマンがキューバなら、若手セカンドのハビア・バエス選手はプエルトリコ出身ですし、捕手のコントレラス選手はドミニカ出身です。

 そんな選手たちの喜怒哀楽を、微笑みを浮かべながらもクールに統率していたマッドン監督は白人というわけで、とにかく、このカブスが見せた一体感というのは、人種統合の成せる技であり、他でもない21世紀のカルチャーの産物のように思います。

【参考記事】トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

 野球と人種の関係では、白人優位を嫌って黒人のアスリートたちがバスケやフットボールに流れるという現象が20世紀末には顕著にありましたし、中南米からの選手たちが自分たちだけでまとまる傾向もあったりと、様々にギクシャクした人間模様があったことは事実です。ですが、この2016年のシカゴ・カブスは、ヘイワード選手などのリーダーシップによって、これまでの野球界とは違ういい形での統合を達成していたし、それが強さの秘密だったと思います。

 その意味で、オーナーがトランプ支持だとか、漠然と中部の古い伝統球団が勝ったということで、このカブスの優勝のドラマを「大統領選の波乱」、特に「トランプの勢い」に結び付けるのは少々見当違いでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story