コラム

イエレン議長「高圧経済」理論は、日本経済には適用できないのでは?

2016年10月25日(火)15時00分

 それは、現在のアメリカの、あるいはグローバルな経済が「放っておけばデフレ」という根源的な体質を抱えているからです。デフレというと、不景気なイメージがありますが、必ずしもそうではありません。要するにモノやサービスの値段が低下傾向にあるわけです。それも経済構造の極めて深いところでそうなっているのです。

 原因は「テクノロジーの進歩」と「エネルギー価格の安定」です。そのために、あらゆる産業で生産性が向上し、モノやサービスが廉価で生み出されるようになっています。これを放置しておけば、労賃は下がる一方で格差もどんどん拡大してしまいます。そこで、カネの流通量を増やし、税金を投入して需要を喚起するということでバランスを取ろう、それが「高圧経済」が必要とされるメカニズムとして回っているのだと思います。

 問題は、政府主導でカネを使っても、多くの場合は「リターンが取れない」、つまり、カネをムダに使うだけに終わる危険性があるわけです。また、そうした無駄使いを続けて、さらにカネを供給し続けた結果として、異常なまでの国家債務を背負うことになると、その国は破綻して、民間の経済も雇用も著しく損なわれることになります。

 そのような破綻を避けるためには、先進国も新興国も「みんな一緒」に「高圧経済」を続ける必要があります。そうすれば、相互に比較して一国の国家債務が突出したり、一国の通貨や国債が「売り浴びせ」られたりすることは避けられるからです。

【参考記事】米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由

 では、日本の「アベノミクス」も同じなのでしょうか? 私は、これまでのアベノミクスは、為替レートの円安誘導を行って、多国籍企業の株価を円建てで持ち上げるだけで「毒にも薬にもならない」が、とりあえず株高は消費にマイナスにはならないので、反対する理由はないと考えてきました。

 また、日本の国債や円が叩き売られる危険性も、イエレン議長の言う「高圧経済」を世界各国が続けている中では、低下していると見ることができます。では、アメリカなどがやっているのと同じように、日本の「アベノミクス」という「高圧政策」は当分続けたほうが良いのでしょうか?

 この点について、私はここへ来て少し疑問に思えてきたのです。それは、日本のデフレ要因がグローバルな要因と違ってきているからです。日本のデフレ要因は「テクノロジーの発展」と「エネルギー価格安定」ではありません。まったく別の3つの要因から来ているように思います。それは「事務部門の異常なまでの低生産性」「誰も批判しない中での異常なまでの産業の空洞化」「人口減と競争力低下による将来不安」の3点セットです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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