コラム

ヒラリー対トランプの「ゴシップ合戦」に突入した大統領選

2016年05月17日(火)15時30分

 ですが、例えば格差問題への怒りを抱えてサンダースを支持し、そしてヒラリーを憎む余りに「ヒラリーとトランプ」の組み合わせなら「トランプに投票するかもしれない」という若者層には、意外と効くかもしれません。

 現代アメリカ社会は、世代が下に行けば行くほど、男女平等の思想が定着していますし、若者たちには「ヌードモデルを『囲っている』豪邸に出入りしていた富豪」というキャラクターは「嫌悪感をもって」受けとめられる可能性があるからです。それは男女ともにそうです。

 一方で、ゴシップ報道では、クリントン陣営も攻撃を受けています。先週には、「ビル・クリントンの2億円贈与疑惑」が報じられて話題になりました。

【参考記事】打倒トランプへヒラリーが抱える弱点

 大統領退任後のビル・クリントンは「クリントン・イニシアティブ」というNGOを運営しており、世界中から集めたカネで「貧困国の水資源確保」や「世界の環境保護」といった活動をしています。

 そのNGOのカネが200万ドル(約2億円)、ある「省エネテクノロジー」開発会社に流れているというのです。またその会社は政府からの研究資金として81万ドル(約8100万円)の助成を受けているのですが、これもクリントンがエネルギー庁に「口利きをした」結果だという報道があります。

 問題は、その会社を運営している女性が「クリントン家の家族ぐるみの友人」で、ニューヨーク郊外のクリントン家に「よく出入りしている」だけでなく、「金髪で離婚歴のある美女」という「思わせぶりの記事」がタブロイド紙を賑わせていることです。

 この種のスキャンダルは、90年代の一連の「ビル・クリントンの女性スキャンダル」を知っている人間には「またか」と思わせるものがあります。仮にそうした疑念を抱いてしまうと、ヒラリーについても「夫への管理不行届」という形での批判につながりかねません。

 また、最終的にNGO団体「クリントン・イニシアティブ」の管理に問題があるということになれば、ヒラリー陣営には大きなダメージになります。ヒラリーとしては、大統領候補に名乗りを上げて以降は「このNGOには自分は一切関わりない」としていますが、それでは済まないでしょう。

 こうした「ゴシップ」は、もちろんアメリカの大統領になろうという人物にとっては「必要な身体検査」であることに間違いありません。ですが、この時期にこのような形で集中して報じられると、選挙の真剣な雰囲気をぶち壊しているようにも思えます。

 私が昨年10月にこの欄で予想した「最悪のシナリオ」がまさに現実になってきたようです。もっとも、この時には「ヒラリー対トランプ」ならヒラリーが圧勝という予想をしていましたが、その点はまったく分からなくなってきました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NATO事務総長がトランプ氏と会談、安全保障問題を

ビジネス

FRBが5月に金融政策枠組み見直し インフレ目標は

ビジネス

EUと中国、EV関税巡り合意近いと欧州議会有力議員

ワールド

ロシア新型中距離弾道ミサイル、ウクライナが残骸調査
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story