コラム

日本は「トランプ外交」にどう対抗したらいいのか?

2016年05月02日(月)09時30分

 もちろん、トランプの発想法には日本経済が強かった80~90年代のレトロ感覚が染み付いている、それ以上でも以下でもない、ということは「全く真に受ける必要はない」という態度を取ることも可能です。

 ですが、いかに無責任なものとはいえ、こうした言動が大衆受けしていることは、その世論の奥底に、こうした発言を生み出す土壌がある、そのことは決して無視できないと思います。要するに、アメリカの財政赤字が慢性化している前提で、ただでさえカネがないのに「外国のためにカネを使う」のはやめたい、そんな感情です。

 そう考えれば、日本でも全く相似形の感情論はいくらでも見出すことができます。例えばODAへの反発や、韓国系学校への土地提供をめぐる反発にしても、これと同じような心理が世論の核にあるわけです。

 ですが現状のアメリカでは、これに加えて「アメリカだけを考えればいい」とか「世界の混乱には関わりたくない」という伝統的な孤立主義が絡んでいるので、相当にタチが悪いと言えます。

 さらに問題なのは、日本を頭越しに飛び越して、中国との関係改善を企図していることです。自由と民主主義などという概念とか価値観などでは「メシは食えない」と考えるトランプとその支持者は、相互にメリットがあると思えば、中国ともロシアともズブズブの関係になることに全く抵抗がなさそうであり、これも頭の痛い問題です。

【参考記事】突如飛び出した共和党「反トランプ連合」の成算は?

 トランプのレトリックの巧妙なのは、実は「カネがないので支出を減らしたい」という後ろ向きの話を「毅然とした強いアメリカを取り戻す」という威勢のいい話に「すり替え」ていることです。その「すり替え」によって世論は「コロッと」騙されている面もありますが、世論は世論で「カネがないから支出を減らしたい」という冷静な政策論を「トランプの見せかけの威勢の良さ」にかこつけて、喜んで騒いでいるという面もあります。

 困ったことになりました。こうした「孤立主義」から来る「カネをケチる」方向性というのは、トランプ以外の人間が大統領になっても、多かれ少なかれ傾向としては出てくると思われるからです。

 日本の場合、在日米軍に関して、これ以上巨額な駐留費用の負担を要求されるようですと、自主防衛論と一国平和論という右と左のポピュリズムが暴走して、収拾がつかなくなる危険があります。経済が苦しい今、そんなことをやっている暇はないのです。

 ではどう対応したらいいのでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story