コラム

シナイ半島のロシア機墜落をめぐる各国の思惑とは?

2015年11月06日(金)17時15分

 そんな中、イギリスとアメリカのテロ対策の評論家たち、そして両国の保守系のタブロイド新聞などは「ISILの爆弾テロ」という説を連日主張しています。事故の発生が高度1万メートルの巡航高度であって、ISILの地対空砲では届かないことから、「何者かが爆弾を持ち込んだ」という説が中心となっています。

 そうではあるのですが、今週のCNNでは「手荷物の可能性は低いので、機内食の納入業者や機内清掃の業者を疑うべきだ」という、かなり信憑性の怪しい話も飛び交っており、現時点では決め手に欠ける印象です。一方で、欧州の航空会社を中心に旅客機のシナイ半島上空の飛行を回避する動きも出てきていますが、回避対象空域に関しては航空会社によりマチマチで、かなり狭いエリアに限定しているケースもあるようです。

 今週5日、鍵を握るエジプトのシシ大統領はロンドンを訪れていますが、テロ説を唱えるキャメロン首相との「溝」は埋まっていません。一方で、アメリカのオバマ大統領は「テロ説は排除できない」という声明を自分から出すなど、綱引きが続いています。

 今後このニュースの展開によっては、シリア情勢にも影響が出る可能性があります。当面は、ロシア・エジプトと米英は平行線をたどりそうですが、事態の進展に注目したいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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