コラム

中国主導のAIIBに急いで参加する必要はない

2015年04月09日(木)13時01分

 こうした点に関しては、日本が中心となって設立したフィリピンに本部を置くアジア開発銀行(ADB)の発足当時の状況とはだいぶ違うように思います。ADBは1966年に設立されました。それから3年強を経過した時点で、初代の渡辺武総裁が世界銀行のロバート・マクナマラ総裁と対談した内容が、1970年4月13日の朝日新聞の第2部に掲載されています。

 この中で、両総裁は「途上国の自助努力が先進国からの援助を刺激する」という好循環を作らねばならないとか、「途上国の負債削減が急務だ」という認識に立って、「融資と技術訓練をセットで行う」あるいは「途上国が輸出産業を育成できるように指導する」といった長期的な観点からの「目標」をしっかりと掲げていました。

 AIIBもそのホームページで、「現存の開発銀行(複数形、つまりは世銀とADBのこと)や民間セクターの経験に学んで自行の基盤を整備してゆく」ということを述べています。ですが、そのことの本当の意味、つまり短期的な自国への利益還流や、自国の影響力強化では「ない」ような、本当に「開発のための銀行」としての存在意義を学ぶまでには時間がかかるでしょう。

 AIIBは構想が生まれてからまだ2年も経過していない「純粋に新規のプロジェクト」です。この先、本当に優秀な人材を集めて、確固たる理念と公明正大な業務体制を整備してゆけるのか、AIIB自身が警戒している「肥大化、腐敗、環境破壊」を回避することができるのか、見極めには時間がかかると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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