コラム

オバマが「無料化」を提案したコミュニティ・カレッジとは?

2015年01月22日(木)12時17分

 現在の「コミュニティ・カレッジ」は主として次の4つの機能を担っています。

(1)経済的な理由で4年制大学へ進学できない若者の救済という目的がまずあります。コミュニティ・カレッジの授業料は低額なので、1~2年間こちらに進学して優秀な成績で単位を取得すれば、今度は奨学金がつく形で4年制大学の専門課程に転学ができるようになっています。

(2)高校までの学習に困難を感じたり、大学入試の統一テストが苦手だったりする若者に対して「一切入学選考をしない」ことで、高等教育の門を開くという目的があります。こうした若者も、コミュニティ・カレッジで優秀な成績で単位取得ができれば4年制大学に転入の道が出てくるのです。

(3)医療補助職であるとか、警察消防などの公共サービス、あるいは初級のコンピュータ技術など、必ずしも4年制の大学の学位は必要ないが専門資格が要求される職業に関して、資格取得のコースを提供しています。

(4)社会人になったが、改めてキャリアのコース変更や、ステップアップを考える人々に「夜間大学」として、資格取得や自己啓発のための教育を提供しています。20代だけでなく、30代、40代の「再チャレンジ」のための教育機関という機能も担っているのです。

 この中で、特に重要なのは(1)と(2)です。アメリカの大学入試は、統一テストの成績に加えて、スポーツやボランティアの履歴など「全人格」が問われるプレッシャーがあるわけですが、全米のコミュニティ・カレッジは「高卒か大検」の資格があれば選考なしに受け入れることになっており、大学入試制度を補完する救済システムになっているのです。また、経済的負担も低減されていることも重要です。

 アメリカでは1990年代のビル・クリントン政権時に、幼稚園から大学までの「ナショナル・スタンダード」つまり全国統一のカリキュラムを策定し、特に高校から大学への「接続」に関して制度の整備を行いました。この動きに併せて高校までの段階で「学習困難」を経験していた若者には、このコミュニティ・カレッジで「高校までの学び直し(リメディアル教育)」を行うという機能も意識的に整備されて来ています。

 ちなみに、今回のオバマの「無料化」という提案は、昨年テネシー州で「州立のコミュニティ・カレッジの無料化」という制度が議会を通過して施行されていることを受けてのものです。冒頭申し上げたように、共和党が多数の議会では実現は難しいと思いますが、格差是正策として興味深いと思います。

≪著者からのお知らせ≫
1月30日(金)17時より「アルファ・アカデミー渋谷キャンパス」にて「アイビーリーグ校、準アイビー、リベラルアーツ校合格を目指す高校生・中学生のための特別講演会」を行います。若干ですが、まだ定員に空きがあるようです。詳細と、お問い合わせ先は、こちらをごらん下さい。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story