コラム

「中央官庁を持ってくれば」大阪は再生するのか?

2015年01月15日(木)13時28分

 ただ、時代は変わりました。日本から多くの企業が生産拠点を海外に移しています。成功している企業の多くにとって、ターゲットとなる市場も海外が中心です。そんな中で、パナソニックが本社機能の一部をシンガポールに移すなど、モノを動かし、カネを調達する機能は「すべて英語」になっています。

 となれば、商都大阪を復活させるには、言語は英語、帳簿付けは国際会計基準、契約は英語の世界標準の契約書でという、「膨大な事務仕事を英語で」処理できる機能を持つことが重要になってきます。

 つまり、英語で商売のできる町にする、それが商都大阪の復活のカギになるのではないでしょうか? もちろん、香港とシンガポールという大きなライバルが存在します。ですが、まだまだ一定の規模を維持している日本経済の窓口として、そしてアジアの東北部の「事務」を担う町として大阪の地の利ということはあると思います。

 そう考えると、大阪の再生には「リニアで東京と結ぶ」こともいいですが、それ以上に「廉価で確実な航空便」により「香港、シンガポール」をはじめとした、アジアの各都市と結ばれることの方が重要だと思います。

 そのような商都としての国際化というのは、例えば「アップル社の研究開発拠点が来る」などといって喜んでいる首都圏の「租界経済」よりも、ずっと大きな可能性を秘めています。アップル社の場合は、本社機構といっても部品の調達機能となる可能性が高く、その場合は日本の部品メーカーとの協業を深めてノウハウを取り込むという意図が感じられ、日本経済に寄与するかどうかは「両刃の剣」だと思われるからです。

 そうではなくて、地道に国際的なビジネスの「事務がここで完結する」という機能を充実していけば、多くのアジア圏の企業が大阪に本社機能を持ってくるかもしれません。「特区」だなどといって「租界」を作るような経済よりも、ずっとマトモであり経済効果も大きいと思います。

 中央官庁の半分を引っ張ってくるなどという後ろ向きの話よりも、商都大阪の復権といった前向きの改革に話を戻していくのであれば、府市合併構想も生きてくるのではないでしょうか? その上で「第二首都」ではなく「アジアの商都」という意味を込めて「大阪都」を名乗るというのはどうでしょう?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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